2022 Fiscal Year Research-status Report
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22K01410
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
鍋島 直樹 名古屋大学, 経済学研究科, 教授 (70251733)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 経済学史 / 経済思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の初年度にあたる2022年度には、理論と方法の両面にわたりケインズ経済学の意義と特質について考察を加え、今後のいっそうの発展の方向を大まかに見定めることに努めた。これと併せて、ポスト・ケインズ派経済学をはじめ、広く異端派マクロ経済学の諸潮流における新動向の把握にも取り組んだ。これらの作業を通じて、ケインズ経済学の今日的可能性がどこにあるのかについての検討を進めた。 その一環として、同年度にはロバート・スキデルスキー著(鍋島直樹訳)『経済学のどこが問題なのか』名古屋大学出版会、の訳書を公刊した。ケインズ研究の第一人者である著者が、自らの深い学殖にもとづき、経済学のあり方を根本から問い直すことを訴えた問題提起の書である。同書の目的は、経済学の研究が行なわれている方法それ自体を問い直すことによって、これからの経済学が進むべき方向を探ることにある。とりわけ著者は、諸個人の価値観や選好は社会のなかで各人が置かれた位置によって形づくられるのであるから、社会現象を個人の行動の単なる集計と見なすことはできないという点を強調している。さらに同書の大きな魅力は、経済学はもとより、心理学・政治学・社会学・歴史学・倫理学などの幅広い分野の多様な学説が検討の俎上に載せられていることにある。現実世界をより良く理解するために社会諸科学の成果を積極的に活用しようとする著者の姿勢から、われわれは多くを学ぶことができるだろう。なお同訳書は、複数の学会誌のほか、週刊経済誌2誌の書評欄でも取り上げられるなど、学界にとどまらず広く社会において注目を集め、好意的な評価を受けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の初年度にあたる2022年度の目的は、現代経済学の動向に照らしつつ、ケインズ経済学の意義と可能性についての大まかな展望を行なうことにあった。この目的を達成するため、ポスト・ケインズ派経済学をはじめとする異端派マクロ経済学の最近の主要な成果を広く渉猟した。またこれと併せて、ケインズ経済学の形成と発展が進められた歴史的背景について改めて考察するとともに、「経済の金融化」などの現代資本主義を取り巻く諸問題についても検討を行なった。今後は、これらの成果を踏まえて、ケインズ経済学を理論・思想・政策の諸側面から幅広く研究していくことができるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度の成果を踏まえて、ケインズ、カレツキ、ポスト・ケインズ派の経済学についての研究を進めてゆく。しかしながら、ケインズとカレツキの学史的検討、および異端派マクロ経済学の諸潮流における新動向の把握など、初年度に扱った課題にも継続して取り組んでいくので、研究期間全体を通して、過去の理論と現代の理論のあいだの往復作業を絶えず続けていくことになる。
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Causes of Carryover |
2022年度には、ほぼ計画通りに予算を使用し、その結果、4,240円を次年度に繰り越すこととなった。2023年度についても、当初の申請からの大きな変更はない。研究費の大部分を経済理論・経済学史関係図書の購入に充てるとともに、必要に応じて、資料収集のための国内旅費、および謝金などの支出を行なう予定である。
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