2023 Fiscal Year Research-status Report
地域生活に関連する活動主体の立地パターンと,家庭内意思決定との相互作用の分析
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22K01483
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
近藤 広紀 上智大学, 経済学部, 教授 (30324221)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 都市経済学 / 家族の経済学 / 空間経済学 / 新しい経済地理モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
私の研究目的は,地域間分業(「都市圏」と「地方圏」の分化,産業集積,および都市の内部構造)と,家族の姿(家庭内分業,育児や教育,介護,地域間移動の頻度や同居・非同居の選択など)が,相互に影響し合いながら,どのように変化していくのかについて,関連する政策の影響も考慮しながら,理論的に考察していくことにある. 令和4年度は,シンプルな地域間分業の一般均衡モデルにおける,若年世代の教育や,老齢世代の介護などに関連した社会保障政策の影響を分析した.特に,老年世代を対象とした社会保障政策を充実させると,老年期に子世代に依存する必要性が低くなり,したがって,子世代が豊かになること自体の親世代の便益は小さくなるものの,追加的便益(教育投資を行う場合と行わない場合の便益の差)は大きくなり,教育投資の誘因が増すことを示した. これまでは都市圏が一つだけ形成される場合(一極集中)について分析を進めてきたが,令和5年度は,複数の都市圏が安定的に形成される可能性(多極集中)について詳細に検討した.一極集中の場合,都市圏における集積が,高い所得をもたらす一方で,過度の混雑をもたらすという意味で,過大となる.一方,地方圏では教育投資の誘因が起こらず,都市と地方の間に教育や雇用,所得に顕著な差異が生じる.これに対して,多極集中の場合,各都市圏の集積の度合いや所得は幾分か低くなるものの,混雑が緩和され,都市での経済厚生は高まる.また,複数の都市圏がカバーする人口を合計したものは,一極集中の場合よりも大きくなり,都市と地方の分断もかなりの程度改善されることを示した.また,都市圏の望ましい数についても検討した.そして,令和4年度に検討した社会保障政策の効果についても再検討し,同様の効果が期待できることを確認した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでは,シンプルな地域間分業の一般均衡モデルにおける,若年世代の教育や,老齢世代の介護などに関連した社会保障政策の影響を分析した.より具体的には,経済全体が,「都市圏」と「地方圏」に分化していくプロセスが完了しているというシンプルな状況のもとで,社会保障政策の効果を分析した.また,当初は一極集中の場合を扱ったが,多極集中の場合についても,安定性や,望ましさの観点から分析を行った. 本研究では,まず,企業の意思決定や,家庭内の意思決定が,その地域の経済的特性にどのように規定されるかを明らかにし,その後に,逆に,企業や家庭内の意思決定が,地域間分業に影響を与えることで,地域の経済特性をどのように規定するのかを分析し,そして,これらを総合して,地域間分業の一般均衡モデルを構築する,という順序を想定していた.そして,その次の段階として,このモデル内における社会保障政策の効果を議論していくことを予定していた. しかし,まずはじめに,上述のとおり,まずシンプルな地域間分業の一般均衡モデルを構築し,さらにこれを一極集中の場合から,多極集中の場合に拡張し,そのもとで社会保障政策の効果を分析することとし,モデルの各部分の精緻化は,その後に行うこととした.そうすることで,モデルを精緻化しながら,社会保障政策の効果をある程度予測したり,実際に分析したりすることが,より効率的となると考えたためである. 以上の通り,分析手順は入れ替わっているものの,総合すると,おおむね計画通り進展していると判断できる.
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Strategy for Future Research Activity |
各経済主体の意思決定について,より精緻化した形で,地域間分業の一般均衡モデルに取り込みたい.そのために,令和6年度は,企業の意思決定や,家庭内の意思決定(特に育児や教育,介護のあり方,地域間移動の頻度,世代間の同居・非同居の選択など)が,地域間分業が進む中での当該地域の経済的特性(人的資本の集中度合いや,就業機会,保育・教育施設,介護施設,その他関連するインフラの充実度)にどのように規定されるかを明らかにしたい. これまでも,雇用の種類,男女間の賃金格差,また,家庭内生産の一部(家事や育児,介護など)が一定程度市場から調達できるか否かが,女性の労働供給や,子世代や親世代への保育,教育,および介護の在り方を規定すること等が分析されてきた.ただし,これらは,居住地域の経済特性に大きく規定されると考えられる.居住地域が,就業機会に恵まれた都市圏か,それを持たない地方圏か,地方圏でも都市圏とどのような位置関係にあるのかが,居住地域の上述の特性を大きく規定している.しかし,これらが「家庭内意思決定」に及ぼす影響を扱った分析は,これまであまりなされてこなかった. 逆に,家庭内の意思決定が,地域間分業に影響を与え,地域の経済特性を変化させていくことについては,来年度分析対象となるが,教育投資や,それによって生じる高学歴層の人々の地域間移動が,都市化のプロセスを加速したり固定化していく可能性について,予備的な分析を開始したい.
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」で述べたように,本研究では,まず,企業の意思決定や,家庭内の意思決定が,その地域の経済的特性にどのように規定されるか,どのように規定していくのかを分析し,これをもとに,地域間分業の一般均衡モデルを構築し,その次の段階として,家計内の意思決定の精緻化や,社会保障政策のより厳密な分析を行っていくことを計画していた.しかし,まずはじめに,シンプルな地域間分業の一般均衡モデルの構築と拡張を行った.地域の経済特性のデータや,関連図書,分析のためのアプリケーションなどは,令和6年度に購入する.
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