2023 Fiscal Year Research-status Report
Preferential Tax Treatment and Financial Behavior: Causal Forest Analysis of Defined Contribution Pension Plan and NISA
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22K01558
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Research Institution | Kumamoto Gakuen University |
Principal Investigator |
林田 実 熊本学園大学, 経済学部, 教授 (20198873)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大野 裕之 東洋大学, 経済学部, 教授 (50285459)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | Causal Forest / 確定拠出年金 / NISA / 優遇税制 / 金融行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
「貯蓄から投資」が叫ばれて久しい。日本銀行調査統計局(2021; p2)によれば、2021年3月末時点で、個人金融資産に占める「株式等」および「投資信託」の割合は、米国が51.0%、ユーロエリアが27.8%であるのに対し、我が国は14.3%という低水準である。我が国の預金偏重をいかに打開していくかは依然として喫緊の課題である。この課題に応えるべく、投資家の評価が高い新NISAが2024年度初頭から施行され国民の金融行動の変化が注目されている。一方で、金融教育やその成果としての金融リテラシーは国民の金融行動を抜本的に変革するものとして期待を集めている。OECDでは2008年より「金融教育国際ネットワーク(INFE)」を組織して、政策対話や金融リテラシー調査に取り組んでいる。我が国でも金融庁が2012年に「金融経済教育委員会」を立ち上げて報告書をまとめた他、貯蓄広報中央委員会がホームページで「金融リテラシー・モデル講義」を公開し、また『金融リテラシー調査』を実施している。税制を含めさまざまな施策を講じながら四半世紀近く経てもなお、日本人の金融行動が大きく変わらない中、金融教育・金融リテラシー向上が残された最後のオプションかもしれない。このような状況のもと、我々は、本年度の研究において、金融教育が、人々の貯蓄・資産形成や意識・行動に与える影響を探った。ターゲット変数としては、将来見通しが暗い公的年金を補うものとして2001年に導入された確定拠出年金とNISAにフォーカスした。特に、CausalForestと呼ばれる機械学習のひとつを用いて、データ分析を行ったことが我々の研究の特色である。CFを用いることによって、金融教育の処置効果が多用な異質性、すなわち、個々人の属性に応じてその効果が異なることを発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は後掲する2つの論文を執筆した。主要論文である大野裕之・林田実(2024)「確定拠出年金と金融教育、金融リテラシー~ Causal Forestによる投資家の行動分析 ~」では、日本証券業協会が実施する『投資家の証券投資に関する意識調査』の2019年から2021年までの各年のデータについて、企業型DCおよびiDeCoへの加入・非加入を目的変数にして、金融教育の効果が観測されるか否かを、機械学習のひとつであるCFを用いて解析した。その結果、企業型DCの加入・非加入については金融教育の効果を全体として検出できた。また、iDeCoへの加入・非加入については、企業型DCに比べると弱いながらも、金融教育の効果は観測できた。また、金融教育の効果の異質性については、企業型DCにおいて、金融資産総額、時間選好率、リスク回避度、NISA利用の有無でわずかに見られたが、それは3年間をとおして一貫して見られるものではなかった。iDeCoにおける金融教育の効果の異質性はリスク回避度、年齢、時間選好率、金融リテラシーにおいて発現しており、時間選好率を除いて解釈可能である。なかでもリスク回避度が2年連続して5%水準でプラスに有意であることは特筆できる。以上のように、CFによる金融教育の確定拠出型年金への加入・非加入への効果は、特に説明変数ごとの異質性に、一貫性に乏しいという点で難点があることを認識した。これが、CF特有の問題なのか、あるいは『意識調査』データの問題なのか、現時点では明瞭ではない。この点は今後の課題である。もし、後者であれば、日経リサーチ社の生活者金融定点調査『金融RADAR』などの新しいデータの解析に向かうことも一案であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は日本証券業協会実施の『個人投資家の証券投資に関する意識調査』(以下『意識調査』)の2019年~2021年調査のデータを用いて、企業型DCおよびiDeCoへの加入・非加入を目的変数にして、金融教育の効果が観測されるか否かを、機械学習のひとつであるCFを用いて解析した。一方で、大野・林田(2024)「『人生百年時代」とNISA~金融教育/知識に焦点を当てた実証研究~』において、『意識調査』2021年データを分析した。そこでは、NISAを目的変数に据えて、伝統的な計量経済分析を行っている。来年度は、これを受けて、まず、2021年データをCFで分析することによって、NISAへの加入・非加入と金融教育との関係、なかんずく、その効果の異質性に焦点をあてて分析をこころみる。続けて、2019年、2020年データについても同様の分析を行う。また、伝統的な分析との比較検討も行っていく。さらに、直近で2022年データが利用可能になることから、このデータのCF分析も行い、年毎の推移にも注目していく。これらの分析が遂行出来た後には、貯蓄広報中央委員会実施の『金融リテラシー調査』や『家計の金融行動に関する世論調査』、日経リサーチ社の生活者金融定点調査『金融RADAR』など他のアンケート調査の個票データを入手して、確定拠出年金やNISAに関して、適切な処置変数を選択してCF分析を行うことを検討する。
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Causes of Carryover |
Causal Forestの計算のために、デスクトップパソコンの購入を考えていたが、ノートパソコンで処理できる程度のデータ数であったため、保留した。また、共同研究のために有用なプロジェクタをかわりに購入した。コロナ終息にともない、引き続き、共同研究のための旅費、学会発表旅費等に支出していく予定である。
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Research Products
(3 results)