2023 Fiscal Year Research-status Report
家計のリスク選好を時間的・空間的視点から分析する研究
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22K01560
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Research Institution | Toyo Gakuen University |
Principal Investigator |
畔上 秀人 東洋学園大学, 現代経営学部, 教授 (90306241)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 家計のリスク選好 / リスク選好に与える親の影響 / 生命保険 / 家計の金融資産選択 / 危険回避度の測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、100年超という長期間において、日本の家計の金融資産選択におけるリスク選好を分析した。研究実施計画の第Ⅲ期ではその結果をまとめ、2023年7月に国際学会にて報告した。そこでは、日本の家計は少子高齢化によって公的年金の給付額が不十分になると予想される中で、親世代の金融資産選択をそのまま引き継いでいること、半数以上は株式や債券、投資信託などの危険資産に興味がないこと、繰り返される違法行為も含む非倫理的な営業手法により、一定割合が金融業界に悪印象を抱いていることなどを示した。 同時に、現在の個人を対象とした独自調査の準備を進め、2023年10月上旬に実施した。調査の主目的は、個人のリスク選好の形成に親が与える影響の検証である。リスク回避度については、仮想のくじを用いた質問、外出する際に雨傘の携行を決意する最低降水確率を尋ねる質問、リスク金融資産の保有に関する質問などを用いて調べた。また、親の影響については、子供の頃に博物館や美術館などに行った頻度、本人名義の預貯金口座の有無、金銭のことについて親と話をした頻度、親の死亡保険への加入状況、親の保険に対する考え、親のリスク金融資産に対する考えといった質問を用いて調べた。現時点では、親が実際に生命保険に加入していたり、保険に対して肯定的な考えを持っていたりした場合、子も金融資産として生命保険を保有する傾向が強いことや、親がリスク金融資産の保有に否定的であることは、子の金融資産選択に有意な影響を与えていることなどが示された。これらの結果は、2024年度に国内外の学会で報告予定である。 また、外出する際に雨傘の携行を決意する最低降水確率を尋ねる質問によってリスク回避度を計測する手法については、「雨傘携行最低降水確率と危険回避度」として、『2023年度 貯蓄・金融・経済 研究論文集』(一般財団法人ゆうちょ財団)で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画の第Ⅲ期(2023年4月~2023年9月)では、第Ⅱ期に構築されたデータの単純集計から、各変数間の相関関係等を概観し、リスク選好の形成及びそれに影響を与える要因について仮説を立てるとしていた。長期間における日本の家計の金融資産選択におけるリスク選好に関する分析は、上記のとおり一定の結論を得た。一方、現在の家計に関しては、第Ⅱ期にゆうちょ財団の「家計と貯蓄に関する調査」の個票データを用いて分析した。その中で、外出する際に雨傘の携行を決意する最低の降水確率を尋ね、回答された確率をリスク回避度指標に転換するという手法について、改良を試みた。これにより、第Ⅲ期末に実施予定だったリスク選好に関するウェブ・アンケート調査を第Ⅳ期(2023年10月~2024年3月)の初期に若干繰下げ、2023年10月3日から5日にかけて行った。調査名称を「金融に対する考え方と行動についてのアンケート調査」として株式会社クロス・マーケティングに委託し、同社モニターを対象とした。回収した2,000サンプルの回答の分析は概ね終了し、今後学会にて報告し、議論する予定である。現時点で応募が採択されている学会は、生活経済学会第40回研究大会(2024年6月29日)、Asia-Pacific Risk and Insurance 28th Annual Conference(2024年7月28~31日)である。 また、上記の雨傘携行最低降水確率をリスク回避度に転換する手法について再検証を行うため、別予算を費やして2025年1月にウェブ・アンケート調査を行った。このように追加調査を行っているものの、第Ⅳ期の「記述的資料とアンケート調査の集計結果に基づき、定量的データに対する統計的推定モデルの構築を行う。モデルの推定結果は論文としてまとめ、国内外の研究大会に応募する」という計画は、遅滞なく行われている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実施計画の第Ⅴ期(2024年4月~2024年9月)では、各種学会の研究大会における議論を踏まえて研究成果は論文に仕上げ、海外を含めた専門誌へ投稿する、第Ⅵ期(2024年9月~2025年3月)では、研究成果を書籍として公表する準備を行う、としている。この計画に従って研究を推進できる見込みであるが、主に2つの課題について研究の精度を高めていく予定である。 第一は、家計のリスク選好を直接的に計測する手法についてである。仮想のくじを用いた質問や実験により、Arrow-Prattの危険回避度を導出する手法がしばしば用いられるが、設定が理解しづらいと感じる回答者や被験者が一定の割合で存在する。日本においては雨傘携行最低降水確率を尋ねる試みが2000年頃から見られるが、一般的にはArrow-Prattの危険回避度を導出できない手法である。本研究においてその改良を試しているところであるが、上記の再検証でも、質問の設計が成功しているとは言い難い。そこで、この課題に取り組んでいく。 第二は、個人のリスク選好の形成に与える親の影響の有無を統計的に検証する方法の問題である。現在は、保険やリスク金融資産に対する親の意識や選択行動を独立変数として、子のリスク選好に対する影響を、プロビット・モデルで検証する方法を基礎とし、サンプル・バイアスを低下させるために傾向スコアを導入した方法を併用している。しかし、幼少期の親の意識や行動を処置とみなすことについては、議論の余地がある。そこで、学会報告を通じて、本手法の妥当性について検討を行っていく。
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Causes of Carryover |
本研究の計画時に報告を予定していた国際学会には、予定通り参加することとなった。しかし、関連する国内学会から当該学会に理事として推薦され、就任した。そのため、国際学会に参加するための旅費は国内学会から支出され、本研究費を使用しなかった。これにより、次年度使用額が生じた。 2024年度は、ラオス・ビエンチャンで開催される国際学会にて研究報告することが決まっているが、為替相場の変動によって当初見込みよりも旅費が大きくなると予想される。よって、上記の繰越金は、国際学会の旅費に使用する計画である。
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