2022 Fiscal Year Research-status Report
近代都市東京における土地賃貸借市場の構造分析 ―麹町区内幸町のケーススタディ―
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22K01609
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
鷲崎 俊太郎 九州大学, 経済学研究院, 准教授 (50306867)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 近代 / 明治時代 / 東京 / 弁護士 / 代言人 / 法律事務所 / 立地 / 生産者サービス |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度の本研究に関しては,2回の学会報告(①2022年4月23日に社会経済史学会九州部会(オンライン開催)にて「なぜ明治期の東京市京橋区に弁護士事務所が多かったのか? ―歴史地理学の視点から―」,②同年5月21日に歴地理学会第65回大会研究発表会[自由論題]にて「明治期東京市内における弁護士事務所の立地状況」)に尽力を注いだ。後者は前者の加筆・修正版であるが,これらの報告では,明治期東京市内における法律事務所の立地状況について,弁護士名簿や新聞広告などを用いて分析し,その意義を検討することを目的としている。産業集積研究には枚挙の遑が無いが,法律に代表される「生産者サービス」の立地パターンの分析は日本経済史でも稀有であり,明治東京における法律事務所の集積状況を近代日本都市史に位置づけることを,本報告の狙いとした。当該期の法律事務所は,とりわけ京橋区銀座に集積していたのだが,その集積理由として,業務面から4点を検討した。第1は,裁判所からの距離で,1890年代中頃に司法省と大審院が丸ノ内から霞が関へ移転しても,銀座地区はアクセスしやすく,また横浜居留地にも汽車で行きやすい場所にあった。第2に,起業の法律顧問として定款を起草するために,ビジネスセンターである日本橋や丸ノ内とのアクセスも無視できなかった。第3に,居留地貿易時代には,外国人による特許の出願・登録が実質的に不可能だったため,日本人弁護士はその出願・審判に対する代理人を引き受ける必要を有していた。第4に,1890年代に民法・商法が施行され,法律認可を必要とする契約が増加したが,弁護士には書類作成の代書業をも委ねられていた。そのため,不動産登記の頻繁な都心で,法律サービスの需要が高くなった。 以上の分析から,明治期のビジネスセンターだった日本橋・丸ノ内に対して,銀座は「生産者サービス」のセンターだったと結論を導いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
明治期東京市内における法律サービスの立地パターンに関しては,上述のとおり,一定の分析結果と考察を出すことができている。 他方で,同時期における三菱合資会社の内幸町地所にて,借地を行い,同地を深瀬周吉という医師に提供し,総合病院の経営にあたらせた横尾弥門という人物の分析に関しては,山形県東根市に居住する横尾家の方々から,新型コロナウイルス感染症対策をはじめとする理由のため,史料閲覧の許可が下りない状況にある。この史料収集に関しては次年度への課題としている。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のとおり,横尾家の史料収集に関しては,2023年度に新型コロナウイルス感染症対策が落ち着いた段階で,実施を試みたいと思っている。また,明治期東京市内における弁護士事務所の立地状況については,論文刊行をめざしている。このほか,三菱史料館所蔵の三菱合資会社・内幸町地所における「収支目録」の各月データを収集している途上にあるので,これらの貸地別地代の推移を推計し,公刊に辿り着かせたい。
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Causes of Carryover |
当年度には,新型コロナウイルス感染症対策のため,史料提供元からの史料閲覧ができなかったため,その旅費や収集・分析に必要な物品の購入を消化することができなかった。次年度の使用計画としては,当年度に果たせなかった史料閲覧の許可が得られたうえで,その収集に努めることにしたい。
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Research Products
(2 results)