2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K01665
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
葛山 康典 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (10257222)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | リアルオプション |
Outline of Annual Research Achievements |
研究開発(R&D)投資において、R&Dの成功が不確実であることが意思決定を困難にしている。この不確実性はR&Dの成否だけではなく、仮に成功した場合であっても、いつ成功するのかが問題となる。本研究では、R&Dの成功確率がハザード過程に従うという仮定の下で、この投資に対するリアルオプション価値を評価する。また、R&Dそのもものの市場価値も時間とともに変化すると考えられる。従って、静的な環境であれば、R&Dの市場価値が投資コストに見合わないと判断される場合には、投資が実行されないが、実際には市場価値そのものが確率過程に従っていると考えることが妥当である。この場合、意思決定はR&Dの市場価値とコストとの単純な比較では無く、将来的にR&Dの市場価値が上昇するケースをも想定し、リアルオプションとして評価することが妥当となる。 本研究では、R&Dの成功確率とR&D市場価値がともに不確実であると考える。特に、R&Dの対象が既存技術を置き換えるようなものである場合、R&Dの市場価値は現存する技術の市場価格と相関を有すると考えられる。例えば、新たな発電技術の価値は、化石燃料など現存の技術による発電コストと高い相関を有すると考えられる。このことから、原油価格(資産価格)はR&Dの市場価値と相関を有するだけでは無く、R&Dの成功確率にも影響を与えると考えられる、 以上のことから、本研究では原油価格のような資源価格と、R&Dの成功確率がHeston Model(相関をもつふたつの確率過程)に従うと仮定し、さらにR&Dの価値が原油価格に依存する環境の元で、リアルオプション価値を求め、最適な投資意思決定時点を導出するモデルを構築している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Heston Modelを用いたリアルオプション価値のモデル化は終了している。本研究のモデルでは、R&Dの成功確率をハザード過程としてモデル化していているが、成功確率は観測不可能な変数であるため、何らかの推定量を用いる必要がある。本研究では、ベイズ推定量を用いて、成功確率を推定し、数値積分を用いてオプション価格の導出を試みている。成功確率のモデルパラメータを如何に設定するかが、本研究が想定するモデルが導く含意に大きな影響を与えることとなるが、Heston[1]のパラメータの設定では安定したR&D成功確率の確率分布が得られるが、R&Dへの適用を前提とした現実的なパラメータの設定において、推定される確率分布の評価に時間を有している。特に、この確率分布の評価の過程に数値積分が関与しており、その実行時間に一定の計算負荷がかかることから、モデルパラメータの検討を繰り返し行っている状況である。
[1] Heston, "A Closed-Form Solution for Options with Stochastic Volatility with Applications to Bond and Currency Options," The Review of Financial Studies, Volume 6 - 2, pp. 327-343(1993).
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Strategy for Future Research Activity |
上述のとおり、モデルのパラメータの設定において、検討を繰り返している状況であるが、一定程度の知見が得られつつある。また、急速に進歩する計算機の能力向上の恩恵も得ることができていることから、パラメータの設定における問題はまもなく解消されるものと考えられる。 また、Hestonのモデルそのものは、債券と通貨オプションの分析に関わるもであるが、これに関連する研究も数多く行われており、本研究の参考となりうる知見を得ることも可能であると思われる。 解析的なモデルの導出はほぼ終了しているため、適切なパラメータ設定が可能になれば、モデルが含意する研究開発投資に関する知見について検討することが今後の研究課題となる。また、資産価格の不確実性を表すパラメータ、あるいは研究開発投資が価値を失うまでの時間(リアルオプションにおける満期)等について、数値実験を繰り返すことで、さまざまな対象について、どのような意思決定を行うべきかについての知見がえられるものと考えられる。 また、研究開発が永遠に価値を失わない(リアルオプションの Time to Maturity が ∞) の場合と比較した、モデルの挙動を比較検討することも研究の視野にはいると考えられる。
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