2023 Fiscal Year Research-status Report
A theoretical and practical study on the social shift of corporate performance evaluation
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22K01796
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
岡本 紀明 立教大学, 経営学部, 教授 (00433566)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 社会的インパクト / インパクト加重会計 / インパクト投資 / インパクト測定基準 / ヘテラルキー / ヒエラルキー |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度に実施した研究の成果として、主として2つの公表物につながった。まず一つは、グリーンファイナンスを主題とした編著書(Routledge社によるHandbook)における一章分の分担執筆である。内容としては、グローバルな社会的インパクトの測定基準を比較・検討した上で、それらがやや乱立気味である点を指摘しつつ、わが国における詳細な検討状況を「規範の普及理論」の観点から考察した。これはわが国における社会的インパクトの認識・測定の取り組みが先進的である点を世界的読者に伝達するという点において、極めて有益であると思われる。いま一つは、より哲学的かつ社会学的観点から「社会的インパクト」の存在論的考察に基づく研究が、歴史ある査読誌(Rivista di Estetica)に掲載された。企業の社会的インパクトに関する研究は、特に実践的・制度的視点から語られることが多いが、そもそも「社会的インパクト」とは何であるのかに関する考察が未だ不十分である。その点において本論文は有意義な研究であり、著名な哲学者であるバッファロー大学のBarry Smithとその弟子による「ファイナンスの存在論」と題した特集号に当該論文が査読を経て掲載された点は大きな成果であった。本研究の貢献は、社会的インパクトは現状では書面上に表された文書として個人や組織の行動を促す点に着目し、それを個人・組織のヒエラルキー及びヘテラルキーの観点から捉えたことにある。すなわち、これまでの財務数値による企業比較の枠組みから逸脱しようとするヘテラルキーを生み出しているのが社会的インパクトの認識・測定の動きであり、それを数値化して比較しようとすることは再度ヒエラルキーを生みだすようになると結論付けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1~2年目にかけての地道な作業の結果として、グローバルな査読付きの研究業績が生み出されたので、おおむね順調に進展していると考えている。ただし、もう少し文脈を限って深掘りした(つまり細かな実践や個人・組織的影響に焦点を当てた)研究を進め切れていい点も課題として自覚している。わが国の社会的インパクト測定に関する実践や個別事例の分析が不十分なため、2024年度に注力したい。2022年度から2023年度にかけてわが国のインパクト投資に対する認知度も高まり、ますます注目を集める分野であると思われるため、この時流に乗って様々な所に顔を出し、研究の種を探すことも継続的に行なっていく。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は社会的インパクトに関する国内外の先端的研究をレビューしつつ、より実践に関する事例を集めて分析していきたい。当初、インパクト加重会計の急速な普及を期待したが、未だ期待通りに浸透しているとは言い難い。したがって、今後はより射程を拡げて「社会的インパクト」の認識・測定を試みる実践をターゲットとして情報収集を図る。単に組織実践だけでなく、その制度化や保証の仕組みまで考察していきたい。加えて、社会的インパクトそのものに関する概念的考察(基礎研究)も並行して行なっていくつもりである。これは結果的に数値化や測定の哲学的・社会学的考察とも関連し、会計学そのものの境界を潜在的に押し広げる可能性を秘めていると考える。
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Causes of Carryover |
2023年度に在外研究先の英国ロンドンから帰国して研究環境を整えたため、物品費などが予想より増加し、かつ円安物価高の影響もあったため、年度途中で前倒し請求を行なった。その分を全て使用できず、一部を2024年度に繰り越すこととなった。2024年度は研究最終年度となるため、資料の収集(書籍代・文献印刷費)に加えて、論文の取りまとめ(英文校正費等)と研究成果(学会発表や論文の投稿費用等)を発表することに関する出費を計画している。
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