2022 Fiscal Year Research-status Report
高次脳機能障害者の自己に関する物語論的研究――「リカバリー」の特性を中心に――
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22K01831
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
伊藤 智樹 富山大学, 学術研究部人文科学系, 教授 (80312924)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 自己物語 / ナラティヴ / ナラティブ / 高次脳機能障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究においては、高次脳機能障害をもつ人のピア・サポートを推進しようとする機運もあいまって、示唆的で有益なデータの蓄積を進めることができた。 まず、基本的な部分で確信がもてるようになったのは、高次脳機能障害をもつ人は、それぞれの言語認知・運用能力に合わせた状況をどう担保するかという問題をおさえたうえであれば、相互のコミュニケーションが有効であり、必要でもあるという点である。フィールドワークにおいて行った試行的な集会への参加においては、語り合いへの希求、もしくは充実感ともいえる語りが散見され、参加者のアイデンティティを確保するための場が重要であると考えられた。 他方で、本研究の理論的着眼点については、まだ討究の途上であり、はっきりとしたものは見えていない。ローカルな場に流通する物語と呼べるものがあるのか否かというと、まだこれといった例は見いだせていない。「リカバリー・ストーリー」を共同体の物語として扱ったときの問題点が何であるのか、引き続きデータを蓄積し、読み込みながら考える必要がある。 ただ、いわば共同体の<内側>にある物語よりも、共同体の外側もしくは周辺に位置する語りに耳を傾ける重要性については、やはり揺るがないとの手ごたえを得つつある。ひとつには、ピア・サポートについて半信半疑、もしくははっきりとした疑念を示す人がいる。もうひとつには、語りのリズムに乗り切れない言語障害をもつ人がいる。それらの声を無視するのではなく、語り合いの場にスムーズに入っていける側面と、スムーズには入っていけない側面と、いずれもふまえた事例検討や考察を行うことで、高次脳機能障害の自己物語がもつ性質が明らかになるのではないかというのが中間的な結論となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査データが順調に蓄積されつつあり、また高次脳機能障害者とのコネクションも徐々に広がりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
データの蓄積をさらに進めつつ、フィールドでの自然な機会でのインフォーマルなインタヴューを重んじながら、可能であればフォーマルなインタヴューも試みたい。
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Causes of Carryover |
COVID19の影響が続いたことで、旅費の執行ができなかったため。
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