2022 Fiscal Year Research-status Report
ローカル・コモンズ/シェアリングの方法を通してみる地域的公共システムの検証
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22K01868
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
中西 典子 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (90284380)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ローカル・コモンズ / ローカル・シェアリング / ダウンサイジング社会 / 地方自治 / 公共システム |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度においては、「ポスト経済成長期」のオルタナティブな社会に関して、資本主義制度の史的構造や歴史的発展過程を踏まえつつ、学術的な吟味を加えた。19~20世紀にかけて世界経済を牽引してきた資本主義は、修正資本主義や新自由主義といった資本制システム内の変革における攻防を繰り返しつつも、すでに1970年代のローマクラブによる『成長の限界』(1972)やガボールの『成熟社会』(1972) をはじめ、資本主義経済の拡大成長路線からの脱却が図られてきた。折しも2022年は、かかる「成長の限界」から半世紀の節目であり、ローマクラブによって『Earth for All 万人のための地球』(2022)が発刊され、貧困・不平等・エンパワメント・食料・エネルギーの5分野におけるパラダイムシフトが掲げられた。この50年間、国連による人間環境会議、持続可能な開発、地球環境開発会議、社会開発サミット、ミレニアム開発目標、持続可能な開発目標、等々が提起され、持続可能性をキーワードとした様々な取り組みが行われてきたが、世界各地での紛争や戦争を回避することはできていない。また「成熟社会」に関しては、宇野重規が「日本における成熟社会論の知的起源」(『年報政治学』2019)において、1975年の『中央公論』誌上の対談に着目し、「日本型」の成熟社会論における固有の特徴として、地域コミュニティなどの中間的集団を組み込んだ「分権的な社会システム」を位置づけている。さらに斎藤幸平の『人新世の「資本論」』(2020)は、人間の経済活動が地球環境を破壊することを「人新世」と表現し、「脱経済成長」をめぐる諸説の批判的検討を通じて「脱成長コミュニズム」を提起しているが、経済学の概念規定や論理的展開をめぐっては疑問も出されている。このように、経済成長からの脱却をめぐる議論は一筋縄ではいかず、学説研究を継続していく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の初年度である2022年度は、新型コロナ禍による行動制限がなお継続されるだろうという予測ができたため、海外での現地調査や日本でのフィールドワークの実施に関しては、研究計画に組み込むことを極力回避し、文献研究を主要課題として位置づけたことによる。
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Strategy for Future Research Activity |
ダウンサイジング社会に関連する論考を引き続き分析する。日本では、佐伯啓思の『成長経済の終焉』(2003) および『大転換 脱成長社会へ』(2009) が著されているが、その後、ラトゥーシュ『経済成長なき社会発展は可能か?』(2010) ならびに『〈脱成長〉は、世界を変えられるか』(2013) が翻訳されることで、成長神話からの脱却とディーセントな社会への転換が問われ始めている。また天野佑吉『成長から成熟へ』(2013) では、シューマッハーによる「身の丈サイズのテクノロジー」が、近年注目されている「里山資本主義」にも通じる点が指摘されている。さらに碓井敏正・大西広編『成長国家から成熟社会へ』(2014) においては、「ゼロ成長社会」を資本主義の最終段階として捉え、ポスト福祉国家の生活保障や成熟社会に向かう地方自治の条件が提示されている。他にも広井良典が「創造的定常型社会」として京都モデルを提起しており、経済の「拡大・成長」期には「集中」へのベクトルが強まるのに対し、経済社会の「成熟」期には「分散」のベクトルが強まることを指摘している点は参考になる。 上記と併行して、ダウンサイジング社会がめざすローカル・スケールでの社会経済を考察するにあたり、「ローカル・コモンズ」と「ローカル・シェアリング」という考え方に着目し、「所有から共有・共用へ」という観点から、地域での共有/共用=ローカル・コモンズ/シェアリングの有効性について分析していく。これらの対象となる公共財をめぐっては、地方行政を担う地方自治体とローカルの主体である地域社会の力量が問われることとなり、社会保障や環境、交通といった地域の安全・安心な暮らしを支える公共財のあり方とその共有/共用の仕方を分析しつつ、最終的に、ローカル・スケールでの公共システムの検証を通じて、地方自治の課題を理論的・経験的に明らかにしていきたい。
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Causes of Carryover |
国内出張に要する費用のうち、現地での調査や資料収集以外となる学会や研究会への参加に関して、今年度も新型コロナ禍の影響によってリモート開催(あるいは対面との併用)であったことから、若干の残額が生じた。今後は、新型コロナが収束に向かうとともに対面での開催も増加していくと考えられるため、次年度の出張費として振り分けることとした。
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