2022 Fiscal Year Research-status Report
The "Low and Society" theory and philosophy of the Fukushima Nuclear Power Plant Accident
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22K01889
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
関 礼子 立教大学, 社会学部, 教授 (80301018)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 原発事故 / 公害 / 裁判 / 社会運動 / 環境思想 / ふるさと |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、東京電力福島原子力発電所事故を事例に、(1)避難が長期化している帰還困難区域の「ふるさと」の原状回復をめぐる問題、(2)異なる問題の当事者(被爆者、公害被害者)から見た原発事故の位相、(3)現在進行形で続く原発事故問題の教訓化の意義と課題について明らかにすることである。帰還困難区域は、①復興拠点区域は除染し、②拠点区域外は帰還の意思がない場合に除染するという方針が示された。裁判においても全面的な原状回復が認められていない。本研究は、日本的な環境思想・倫理が、裁判運動と勝訴判決をてこにした政策形成のなかに見出せるという点に着目するとともに、裁判運動が被害当事者の訴えとその被害構造の析出にあったことを重視しつつ、現在進行形で進んでいる帰還困難区域の解除に向けた動向下での被害増幅をにらみながら、原発事故の経験・教訓はどのような環境思想を生成しうるかを考えた。 また、本研究は、法と社会学を接続する環境思想として「ふるさと」に着目した。「ふるさと」は常に正の機能を果たすわけではない。<中心―周辺>構造のなかで持続性のために原発や復興事業を受け入れた選択が、時をおいて<加害ー被害>構造に転嫁して持続性を失ったというのが、原発事故後の地域像である。そこには、皮肉なことに、持続性のために原発を受け入れを阻止してきた「ふるさと」や、原発の問題とは無縁であると思われた「ふるさと」が、<加害―被害>構造に巻き込まれて持続性を失った、という被害実態を見出せる。 こうした現実から、原状回復や被害者の権利回復に資するような、「ふるさと」論による環境思想の再構築を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
原発事故をめぐる「ふるさと」論を、村落研究や人口移動の社会学・法学と接合させる理論を生み出しつつあるため。
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Strategy for Future Research Activity |
村落の「総有」思想から、日本的な環境思想・倫理を見出し、被害地域をめぐる現実を法実務に接合しうるものへと展開する。また、「ふるさと」の法益が及ぶのは、個人の権利にとどまらず、地域集合的なものであることを明らかにする。 従来、「ふるさと」の法益は、所有権や平穏生活権、包括的平穏生活権など、個人の権利を超えるものではなかった。この限界を実証的に乗り越えることこととする。
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Causes of Carryover |
金額が小さく、調査研究旅費として有効利用するため、次年度繰り越しとした。
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