2023 Fiscal Year Research-status Report
社会学的時間批判―公理論化と学説・応用研究の総合による現代的時間現象の批判的研究
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22K01917
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
高橋 顕也 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (60739796)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鳥越 信吾 十文字学園女子大学, 社会情報デザイン学部, 講師 (00839110)
梅村 麦生 神戸大学, 人文学研究科, 講師 (70758557)
吉田 耕平 東京都立大学, 人文科学研究科, 客員研究員 (90706748)
徳宮 俊貴 神戸大学, 人文学研究科, 学術研究員 (50982310)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 時間の社会学 / 社会批判 / 公理論化 / 関係論的時間概念 / 災害社会学 / 社会的時間 / 負債 / コンサマトリー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の2年目である2023年度は、日本社会学会大会でテーマセッション「『時間の社会学』と社会学的時間批判」を実施した。各分野の詳細は以下の通りである。 1)「時間の社会学」の学説史研究に基づき、今日の「時間の社会学」研究に共通する問題系として、a)〈社会的なもの〉に対する〈時間的なもの〉の作用と相対的自律性、b)社会的次元の多元性と統一性、c)時間概念の変化と社会変動との連関、d)近代社会の社会的病理としての時間的病理、という4つの問題系を析出した。 2)18世紀から20世紀にかけての秩序観念史を取り上げ、社会思想史の大きな転換を明らかにした。また社会集団の解体と再編の実証研究を行い、原発事故後の企業データや普賢岳噴火の新聞紙面データを分析した。 3)文化人類学における時間議論を研究し、特にAlfred Gell, The Anthropology of Time. Cultural Constructions of Temporal Maps and Images, (Routledge, 1992) を中心に据えながら、近年の文化人類学の時間論についてまとめ、その社会学の時間論に対するインプリケーションについて、日本社会学会で報告した。 4)モースの『贈与論』を検討した成果について、『フォーラム現代社会学』にて論文化し、その成果をもとに関西社会学会大会にて報告を行った。また、ナシオン論や社会主義論に関しては、日仏社会学会のシンポジウムにて報告を行った。 5)『時間の比較社会学』(1981年)の著者である見田宗介(真木悠介)の重要概念「交響」と「コンサマトリー」をめぐって,関連概念との布置を図式化したり,多義的・重層的な含意をいくつかの側面に整理したりすることで精緻化をこころみたほか,現在志向といわれる現代の若者たちの実情を批判的に検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本事業がとりくむ3領域のうち、主に(A)社会的時間概念の公理論化研究と、(B)「時間の社会学」に関わる理論・学説研究(学説史、概念史研究を含む)を行い、次年度目以降の社会批判研究の土台となる知見(詳細は前項)を得ることができたため。各分野の詳細は以下の通りである。 1)学術論文と口頭発表を通じて時間の概念が分析の対象となるための歴史的な背景を明らかにし、また時間の概念のもとで理解される社会集団の解体と再編の意味を問うことができた。 2)時間の社会学の最初期に立ち返って、デュルケームおよびデュルケーム学派の時間論について研究し、文献の収集・読解の段階である。 3)マルセル・モースの『贈与論』を負債という観点から検討することを軸に、贈与という行為に伴う時間性の内実について検討を行った。またこの議論を、モースの社会主義論やナシオン論と比較検討することにより、共同性に関わる時間のあり方についても検討を行った。 4)社会学的時間批判にかかわる諸理論・学説の整理,ならびに現代社会における未来構想の事例研究を実施する計画であり,前者についてはおおむね順調である。後者についてはやや遅れが生じており,次年度ではより重点的に着手することが必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目(最終年度)として、(1)社会的時間概念の公理論化研究と、(2)「時間の社会学」に関わる学説研究を進めるとともに、(3)「時間の社会学」の応用研究を通じた社会批判研究にも着手する。また、科研メンバー内外の参加者による研究会の実施と、研究論集、日本社会学会等でのテーマセッションを企画している。以下、個別の研究内容ごとに述べる。 1)「時間の社会学」の現代理論のなかで提起された多元的・関係論的時間概念について再検討を行うとともに、そうした社会学的な時間概念を包括しうる理論枠組みとして、ニクラス・ルーマンの時間論に基づく時間メディア論の構想を提示する。 2)文献のサーベイ対象を広げながら、ローザとワグナーの社会思想史を考え直し、時間の概念の歴史的批判的な読み解きを進める。また実地調査とケーススタディを蓄積し、これまでに得られた仮説を検証していく。 3)デュルケームおよびデュルケーム学派の時間論についてさらに研究を進める予定である。また、それをソローキン&マートンらに代表されるアメリカの時間の社会学がどのように継承したのか、あるいは継承していないのかについても検討したい。今年度中に学会で口頭発表したうえで、論文としてまとめたい。 4)贈与論や負債論において時間性がどのように扱われているのかについて、それと深くかかわる「信用」という概念とともにデヴィッド・グレーバーやエミール・バンヴェニストらの議論を比較検討し、資本主義社会における時間性とは別の時間のあり方を提示する。 5)『現代社会の存立構造』との関連にも目を配りながら,『時間の比較社会学』における時間の物象化の理路を再確認したうえで,情報の物象化という論点の展開可能性をさぐり,その今日的意義を検討する。これと並行して,SDGsを推進する立場および批判的な立場の所説を,公理論化研究も踏まえ社会学的未来論の観点から批判的に検討する。
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Causes of Carryover |
物品費(主に資料代)および旅費(主に国内での学会、研究会参加)について、当初の計画よりも予算使用が少なかったため次年度使用額が生じた。今年度生じた次年度使用額分については、購入が未決定であった資料の購入や、国内外の学会、研究会への計画段階以上の積極的な参加により、次年度において使用する。
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