2022 Fiscal Year Research-status Report
Study on the Tactics of Practice of Everyday life: The Applicability of Michel de Certeau's Theory of "Making Do" to Sociology
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22K01938
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
草柳 千早 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (40245361)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 日常的実践 / セルトー / 身体 / 共在 / 過労死・過労自殺 / 組織からの逃走 / 記憶 / アルヴァックス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的はセルトーの「なんとかやっていく」論を社会学的に応用する可能性を検討することである。「身体管理への抵抗」「組織からの 逃走」「過去の想起」の3視角を設定し、課題Ⅰ~Ⅲに分けて研究を進める。2022年度は第一に、3課題の共通基盤であるセルトーの日常的実践論について、理論的理解を共同研究者(研究代表者草柳と研究協力者の松井怜雄と武内保)間で共有し深化させること、第二に、各課題に各分担者が取り組むこと、以上2層の作業を同時進行で行った。第一の作業としては、セルトーの主要な著作の原語・英訳・日本語訳版を可能な限り収集し、最重要文献から読書会形式で講読を進めた。それによりセルトーの理論と方法的視点について理解を深め、社会学的応用可能性について検討を進めた。第二の各課題は以下のように進めた。課題Ⅰの目的は、身体・生の管理をめぐる権力とそれに応じる戦術的な実践の諸相について理論的・経験的に把握し、生-権力とそれに抵抗する戦術について検討することである。2022年度は、ゴフマンの相互作用秩序論とフーコーの権力論の視点を糸口に、セルトーの「なんとかやっていく」論の理論としての効力について検討を進めその成果を論文にまとめた。課題Ⅱは、組織成員の組織からの逃走可能性について経験的に把握する。 そのため首都圏のあるサークルとそこに集まる人々を対象に、サークル活動のフィールドワーク並びに個人に対する半構造化インタビューを進めた。2022年度は個人インタビューは2件行い、次年度も継続する。課題Ⅲは、記憶をめぐる権力とその戦術的な実践の諸相について理論的に把握する。アルヴァックスの記憶力と技術、並びに記憶力と批判精神をめぐる議論を、理論的に検討し、それらをセルトーの論と結びつけていく作業を進めると同時に、事例研究への応用を目指し、広島においてフィールドワークと資料収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績概要欄に記載のように、研究は、第一に、共通基盤セルトーの日常的実践論についての理論的検討(全員)、第二に、各課題への取り組み(分担者毎)の2層の作業を同時進行で行なってきた。いずれにおいても、おおむね順調であったが、進捗の緩急はあった。第一の作業では、文献収集段階で、セルトー著作の日本語訳の多くが絶版となっており、また原著と英訳版を海外から取り寄せるにも時間を要し、必要文献の入手に、当初の見込み以上に時間を要した。入手後の文献講読においては、日本語訳書を中心とした講読を経て、原著と英語版を組み合わせた精読を行い、セルトーの理論、思想の理解と検討に相当の時間を有した。そのため、計画以上の進展と言えるまでには至らなかった。 課題毎の進展については、3年のうちの1年目でもあり、一方でセルトーの理論の理解の共有と検討を進めながらでもあり、大きく進展したというよりは、それぞれ可能な限りで課題に対応する作業を推し進めたと言える。課題Ⅰでは、その成果を一論文にまとめたが、引き続き取り組むべき多くの課題を残している。課題Ⅱでは、サークル活動のフィールドワークと個人に対する半構造化インタビューを主たる作業として順調に進めた。しかしインタビューに関しては、個人の協力者を集めることは、本研究課題の性格上容易ではなく、また慎重を要するため、時間をかけた。計画以上の進展とはならなかった。課題Ⅲは、理論的な検討作業と同時に、フィールドワークと資料収集を行った。理論的な検討作業の現時点までの成果は論文としてまとめつつある。後者は、日程上の都合で計画よりやや後ろ倒しの実施となった。 以上より、2022年度の研究は全体としては順調に進んだが、細かくは時間を要した作業もあり、計画以上の進展とはならなかったと評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度以後も、研究は、第一に、共通基盤セルトーの日常的実践論についての理論的検討(全員)、第二に、各課題への取り組み(分担者毎)の2層の作業を同時に進めていく計画である。第一の作業としては、セルトーの日常的実践論について、引き続き理論的検討を進める。2022年度に積み残したセルトーの著作群の講読を継続するとともに、当初の計画にしたがい、基礎研究として「権力」「ハビトゥス」に関する文献研究を行う。具体的にはブルデューの実践論、 フーコーの権力論について、セルトーの議論との連関・接続を探り、日常的実践論の現代的・社会学的な応用可能性の検討へと繋げていく。 第二に、3つの課題毎の推進方策としては以下を考えている。課題Ⅰでは、引き続きゴフマンの相互作用秩序論、フーコーの権力論とセルトーの日常的実践に関する理論の結節点を探り、身体の共在という局面における相互作用秩序、権力と抵抗の諸相について考察を進める。特にセルトーの「空間の実践」論に基づき、現代都市における空間・身体・秩序・権力の関係について考察する。課題Ⅱは、調査対象としているサークル活動のフィールドワークと個人に対する半構造化インタビューをさらに実施する。同時に、これらの経験的研究の成果をセルトーの理論的な観点から整理し、学会報告、論文発表を行っていく。課題Ⅲでは、アルヴァックスの記憶力と技術、並びに記憶力と批判精神をめぐる議論について、理論的な検討作業を継続し、これまでの成果について、学会報告、論文発表を行う。同時に、事例への応用を目指し、当初の計画にしたがい、過去の表象のされ方、石碑や遺構といった過去の 痕跡などに関するフィールドワークと資料収集をさらに展開する。
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Causes of Carryover |
インタビューに関わる経費として、交通費に当初計画よりも残額があったため。
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