2022 Fiscal Year Research-status Report
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22K01939
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
池田 祥英 早稲田大学, 文学学術院, 准教授 (90772096)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | タルド / パーク / 集合行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の計画では、2022年度にフランスに渡航してパリ政治学院歴史センター所蔵のタルド関連資料(書簡)を閲覧しながら、F.H.ギディングスや心理学者であるJ.M.ボールドウィンなどタルドと直接交流のあった論者との関連について検討する予定であったが、世界的なコロナウィルス感染の影響で海外渡航が制限されていたため、これを実施することができなかった。そこで、まずは書簡のやり取りのないR. E.パークの所論におけるタルドの学説の受容を中心に検討することとした。パークの著作のなかでもドイツで提出した博士論文である「群集と公衆」(1904年)と、E.W.バージェスとの共著である『科学としての社会学入門』(1921年)における第6章「相互作用」と第13章「集合行動」における記述を検討した。そこでは、パークは総じてタルドの主張には批判的であったことがわかった。パークはタルドが「群集」を人々の直接的な接触に基づくものに限定し、マス・メディアによる間接的な接触で結びついたものを「公衆」として区別したことを不当であると考え、「群集」は接触の様態にかかわらず不特定多数の集まりとして、「公衆」はそのなかに意見の対立が見られ、討論を行う存在としてとらえていたことを指摘した。一方で、パークはタルドとともに「対立」の重要性を指摘し、それはパークの都市社会学理論の基盤をなしている「競争→闘争→応化→同化」というプロセスとも関連することが見いだされた。パークの所論の検討を通じて、パークとその後継者であるH.G.ブルーマーにおいてボールドウィンの所論との関連性があることがわかったため、2023年度以降にボールドウィンとの関係に取り組むにあたって、引き続きパークとブルーマーについても検討していくこととする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画においては、ギディングス、ボールドウィンのほか、イタリア人の外交官でAmerican Journal of Sociologyなどでタルドの学説を紹介し、デュルケームと論争したG.トスティを中心に取り扱う予定であったが、フランスへの渡航が難しかったこともあり、まずは研究の蓄積の多いパークの所説を検討することとした。パークとタルドは、「群集」や「公衆」といった同じ概念を用いているという点で漠然と共通点を持っているという認識しかなかったのが、実のところかなり大きな見解の相違があり、一方でともに「対立」概念を重視しているという新たな共通点を認識することができた。これらの知見について、一度の口頭発表を行い、論文にもまとめることができたが、現在審査中である。 本来であれば、2022年度にパリ政治学院所蔵のタルド宛書簡を閲覧する予定であったが、コロナ禍で渡航が難しく、また渡航費の高騰もあり、これらの問題が沈静化してからこれらの調査を行うほうが研究費の効率的な運用につながると考え、次年度以降に持ち越すこととした。特にボールドウィンについては、パリ政治学院所蔵の書簡の検討が必須となるため、早期に渡航の検討を進めていくこととしたい。 以上の点より、当初の研究計画に照らしておおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度においては、前年度に検討したパークの議論とのつながりで、ボールドウィンの所説との関連について着手したいと考えている。ボールドウィンについては、模倣について論じた『子供と民族における精神発達』(1895年)と『精神発達の社会的・倫理的解釈』(1897年)を中心に検討していくことになる。それに関連して、C.H.クーリーの『人間性と社会秩序』(1902年)やG.H.ミードの『精神・自我・社会』(1934年)についても、ボールドウィンを介して検討していく必要がある。ブルーマーの集合行動論においても、パークから引き継がれた形でボールドウィンの所論との関連性が見られるので、これらの点についてさらなる検討を進めて、2023年度前半には口頭発表を行い、さらには所属学会誌に論文として投稿することとする。シカゴ学派都市社会学とタルドの関連性においては、ライバルであったE.デュルケームやシカゴで研究した経験のあるM.アルヴァックスと比較することも視野に入れている。 2022年度に実施できなかったパリ政治学院所蔵資料の閲覧については、海外出張の制限が解除されたことから、渡航費用高騰の状況も見ながらではあるが、可能な限り2023年度中に実施できるように準備していく。
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Causes of Carryover |
2022年度に海外出張を行う予定であり、また学会報告等について遠隔地で開催される可能性もあることから、外国旅費と国内旅費を計上していたが、海外出張は感染症のため所属先において禁止されていたこと、国内出張については所属先での実施であったため旅費が発生しなかったことから、いずれも支出がなかった。2023年度より所属先において海外出張が認められることとなり、国内学会・研究会等についても対面開催に移行しつつあることから、外国旅費や国内旅費として使用する予定である。
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