2022 Fiscal Year Research-status Report
いのちの電話のボランティア活動に対するスーパービジョンについての研究
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22K02054
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Research Institution | Kibi International University |
Principal Investigator |
石田 敦 吉備国際大学, 保健福祉研究所, 教授 (10202996)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | いのちの電話 / スーパービジョン / 逆転移 / ボランティア / 非専門職 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、本研究の基礎となるデータを収集することに努めた。具体的には、いのちの電話センターで現在行われているスーパービジョンの方法についての、相談員の受け止め方の全体像を明らかにするデータを収集した。そのために、本研究への協力について了承を得ているいのちの電話センター相談員にグループディスカッションを実施した。またそこで得たデータを一層分析するために、個別に相談員に聞き取りの面接を実施し、体験した深刻な逆転移の内容と、その際に必要と感じたサポートに関する事例の報告も得た。以下が得られたそれらのデータの概要である。 相談員の誰もが程度の差こそあれ、相談活動で不快、不安、怒りといった逆転移反応を体験していた。そして、各種の講義、訓練、そしてスーパービジョンの中で、相談員全員に定期的に実施されるグループスーパービジョン(参加者5~10人程度、年8~10回程度実施)がこれらの体験の軽減・緩和に最も役立っていた。グループスーパービジョンでの話し合いは、多くの場合、相互の共感と理解を通した相談員間の相互サポートの機会として機能していた。ここで行われることは、苦痛な体験を話す者にも、またそれを傾聴してアドバイス等を提供する者にも、有意義な体験として感じられていた。しかし、相談した内容が他のスーパーバイジーに理解されなかったり、他のスーパーバイジーからの批判や指摘により傷つけられる場合や、このようなことが起こるのではないかという不安から防衛する態度を取る場合には、グループスーパービジョンは逆機能し、むしろ相談員の苦痛や負担感を増す結果となっていた。 今後は、相談員の体験する逆転移の全体的な様相について、またグループスーパービジョンには適さず、個別的なスーパービジョンによるサポートが必要とされる逆転移について、その内容や性格を一層詳細に調べる必要があることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在まで、相談員からのデータ収集を中心に取り組み、計画通りのおおよその進捗状況にある。現在収集できているデータにより、相談員が逆転移を体験した際のその体験の質、その際得られたサポートの内容、そしてそのサポートを得た際の相談員の反応を把握できるようになってきている。そうして、相談員に求められる逆転移反応に対応するスーパービジョンについてのある程度の仮説が立てられつつある。 興味深いことは、本研究が、研究への協力の意志を示している相談員にとっての重要なテーマを扱っているとしてその意義を認められ、当初予想していたよりも熱心な協力的姿勢により歓迎されていることである。いろいろ悩みながら、また疲労感を抱きながら活動している相談員が、本研究の明らかにしようとするところのものに示す熱心な協力的姿勢は、本研究を促進するものとなっている。 以上から、これまでのデータの収集過程においては、順調な研究の進展を見ているし、今後においても、研究を進めるうえでの協力体制もできており、これまでに収集しているデータを検証し、その中からより明確な仮説を立て、求められるスーパービジョンの在り方について考察していくことに、取り立てて障害となるものはない。 なお、これまでに収集しているのは主に質的データであるが、これらのデータはサンプル数も限られ、量的な処理および分析には適さない。またプライバシーの保護という点からも、極端に個人の私生活に関する情報を収集することも避けるべきである。これらの点から、協力が得られた相談員の年齢、性別、職業、未既婚、活動動機、経験年数等の属性に沿った量的研究はやや進展しにくい状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
現在は、協力を得ているいのちの電話センターでの相談員からのデータのみについて収集、分析、検討を行っている。これからは、このいのちの電話センターの他のスーパーバイザーからもデータを得たい。さらに必要に応じて、日本いのちの電話連盟に加盟する他の全国各地のいのちの電話センターの相談員とスーパーバイザーにも協力を仰ぎたい。そうして、これまでにおおよそ立てることができている仮説をより明確にし、検証するようにする。その際必要となる文献による先行研究のレビューにも一層徹底して取り組みたい。 目下のところの予想では、検証するべき仮説としてあげられそうなものは、以下に関する内容のものとなる。①スーパービジョンそれ自体についての理解が、その有効活用を容易にする。②スーパービジョンのサポート機能は、あらゆる他の機能よりも優先する。③スーパーバイジーへの秘密保持の保障がスーパービジョンを有効にする。④困難を開示するスーパーバイジーのストレングスが強ければ、個人のみならずグループのスーパービジョンを併用することが有効である。 こうして、専門職業教育に基づき養成訓練を受けて活動する専門職業家の場合のスーパービジョンとは異なり、短期間の養成訓練を受け、生活経験を基盤として活動するボランティアの場合のスーパービジョンには、それ特有の構造や手続きが必要となることを明らかにできると考えている。 なお、十分なサンプル数を得て、年齢、性別、職業、未既婚、活動動機、経験年数等の属性データに基づき相談員の逆転移体験の特性を把握し、考察する方針を研究計画の一部として当初立てていたが、逆転移に対する有効なサポートを提供する過程を明らかにするためには、サンプル数を限定し、より個別的体験である逆転移の事例に基づく研究を中心に進める方が有益であるようにも感じる。この点の判断は、今後の検討課題としたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、おおよそ次の2点にまとめることができる。ひとつめに、新型コロナ感染症蔓延が続き、終息の兆しを見せない状況下で、他のいのちの電話センターのスーパーバイザーや同一テーマを追う研究者との打ち合わせができなかった。さらに各種学会や、いのちの電話連盟の主催する全国と地方の研修大会が開催されなかったり、中にはオンライン開催となったものがあった。そのため、旅費を使用することが少なくなった。ふたつめに、文献・資料の検索を行い、先行研究をレビューするべきところ、本務が多忙であり、文献を講読する時間が限られ、それで書籍を中心とした文献・資料の入手のための物品費をさほど使用しなかった。 本年度は、この次年度使用額と本年度計画されている助成金とを合わせ、以下のように使用予定である。まず新型コロナ感染が終息の兆しを見せ、各種会合や大会が会場参加型になりつつある。また同様に他のいのちの電話センターや他の研究者との交流も容易になってきている。そのため、旅費の使用額が増加する。また、本年度は常勤の教育職ではなく、従来の勤務校の付属研究所の研究員の身分となり、研究に投じる時間的余裕ができた。そのため、書籍やその他の文献・資料の入手に取り組むので、物品費の使用が増加する。 上記の通り、昨年度の使用を控えた支出額は、本年度における支出に充当する予定である。
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