2023 Fiscal Year Research-status Report
繊維種テラヘルツスペクトルの定量分析法と繊維中の欠陥評価に関する研究
Project/Area Number |
22K02154
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Research Institution | The Open University of Japan |
Principal Investigator |
倉林 徹 放送大学, 秋田学習センター, 特任教授 (90195537)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
淀川 信一 秋田大学, 理工学研究科, 講師 (90282160)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | テラヘルツスペクトル / 定量分析法 / 欠陥評価 / セルロース系繊維 / 機械的損傷 / 熱的損傷 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はテラヘルツ分光分析法を用い,セルロース系繊維種中に内在する分子間結合によるテラヘルツ波帯固有振動を見出し,セルロース系繊維に機械的損傷や熱的損傷を与えた試料を分析し,損傷により繊維中に生じる欠陥密度の定量的識別法を実現することを目的とする。 これまでに,スーピマ綿のテラヘルツ微分スペクトルを多変量解析することにより,セスロースI型結晶構造に対応したテラヘルツスペクトルの定量分析手法を確立した。さらに,スーピマ綿に機械的,および熱的損傷を加えた時に生じる繊維中の欠陥密度を,セルロースI型結晶の定量識別により計測できることを見出した。機械的損傷に関してはボールミルによる凍結粉砕時間をパラメータとし,熱的損傷については昇温制御可能な電気炉を用い大気圧下にて一定時間(60分)加熱したときの処理温度をパラメータとし,それぞれの損傷に対するスーピマ綿中に含有されるセルロース結晶の損傷度合いを計測することにより,機械的,および熱的損傷を受けたコットン中のセルロース結晶の残留度合いを定量化した。 上記の欠陥評価法をセルロースナノファイバーの評価に拡張した。セルロースナノファイバーは製造時に(解繊工程により)機械的損傷を受けていることが確認されるものの,実験により加えた機械的損傷プロセスや熱的損傷プロセスに対応し,それぞれ損傷が生じる度合を定量的に分析することができた。特に熱的損傷については結晶度の変化をアーレニウスプロットすることにより活性化エネルギーが算出され,損傷が誘起されるメカニズムについて考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
セルロース系繊維種中に内在するセルロースI型結晶に対応するテラヘルツスペクトルを実験により同定し,テラヘルツ微分スペクトルの多変量解析により高い精度の定量分析が可能であることを見出した。また,繊維中に機械的・熱的な損傷を与える方法を検討し,機械的損傷についてはボールミルを用いた77Kでの凍結粉砕における時間依存性により,熱的損傷については昇温制御可能な電気炉を用いた(1時間の)加熱温度依存性により実現できることが分かった。 スーピマ綿を用いた機械的・熱的な損傷評価において定量分析が可能であることを確認し,この手法をセルロースナノファイバーの分析に拡張することができた。研究の実施状況は概ね順調に推移しているものの,成果の公表に関して論文投稿や学会発表が不足しており,成果発表の機会を確保することが課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究により見出したテラヘルツスペクトル定量分析による機械的・熱的な損傷評価の手法を用い,セルロースナノファイバー作製工程における解繊処理の評価やセルロースナノファイバー含有の複合樹脂機能性素材の新たな欠陥評価法としての可能性を追求する。具体的には,解繊処理方法の異なる機械的解繊および化学的解繊による数種のセルロースナノファイバーをメーカーより入手し,各素材レベルでの欠陥評価を実施する。さらに粉末状のセルロースナノファイバーに機械的損傷,および熱的損傷を与えた試料を用いその損傷度合を定量化し,コットン繊維における損傷発生との違いを明らかにすることにより,素材としてのセルロースナノファイバーの優位性を見出す。
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Causes of Carryover |
令和4年度は新型コロナウィルス感染拡大に伴い大学への出校制限期間が生じたため,令和5年度は前年度未使用額が予想を上回る状況にあったが,令和5年度は前年度未使用額の約半分と年度予算を使用し研究を推進した。令和6年度(最終年度)は,令和5年度と同規模の予算支出を見込んでおり,また研究会や科学技術展示会に出席する予定であることから,計画通りの予算使用が見込まれる。
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