2023 Fiscal Year Research-status Report
数学科授業に関する教授言語にみる社会文化的要素の構造:日独両国の比較を手がかりに
Project/Area Number |
22K02255
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
舟橋 友香 奈良教育大学, 数学教育講座, 准教授 (30707469)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 数学授業 / 授業レキシコン / 日本 / ドイツ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,数学科授業における教授言語及び数学科授業についての記述で用いられる教授言語にみる社会文化的要素が,教師の中でいかに構造化されているのか について,日独両国の比較を手がかりにして,日本の特質を明らかにすることを目的とする. 令和5年度は,以下の3つの事柄に取り組んだ. 第一に,本研究では教授・学習行動を記述したりするために教師が用いる語彙群を「授業レキシコン」と呼ぶが,日本の中学校の若手数学教師に対して,数学授業レキシコンに関するインタビュー調査を行った.これにより得られた教師の語りの定性的な分析から,職能成長の過程にみる経験や変容を仮説的に捉えた. 第二に,数学授業に関するドイツの授業レキシコンとの比較から,日本の授業レキシコンの特徴の相対化を試みた.その結果,授業場面に関する語の比較からは,時間の経過に伴う分類が可能であることや解法の比較に関わる語を共通に持つ点に類似性がある一方で,比較に伴い焦点が当てられる内容の相違が想定されることや,日本にはない語の存在が見出された.また,参与者の行為に関わる語に着目した比較からは,行為者の意図の反映という点では相違がある一方で,誤答の捉えや個別の学習者への支援という観点からは日本とドイツの類似性がみられた. 第三に,日本の授業レキシコンに含まれる「よさ」に焦点を当てて,日本の授業レキシコンの形成過程を特徴づけることに取り組んだ.特に,学習指導要領の目標に「よさ」という語彙が導入された背景を探るとともに,小学校教員による「よさ」という語の使用について分析を行った結果,日本の授業レキシコンには社会的な制約のもと数学の営みに関わる価値を内包した語彙が表現を変えて導入されることがあること,また語彙の使用の文脈が多様化しながら教師によって使用されていることを指摘した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題2(日独両国における数学科授業について語る語彙の属性と数学教育史との関連を明らかにする)に関わって,具体的なデータの分析から研究を展開することができた.
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題1では,「社会文化的な存在としての教師と、行為主体としての教師という二つの面を構造化するための理論的検討」を掲げていた.当初,教師に焦点化した研究の展開を想定していたが,授業という営みを捉えるにあたって,教師による行為や発言を学習者にいかに受け止めていたのか,教授行為と学習行為の双方から捉えることの必要性が明らかになってきた.そのため,双方を視野に入れて現象を記述するための理論的基盤としてSfardによるコモグニション論を援用し,日独両国の数学科授業を特徴づけていきたい.
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Causes of Carryover |
31,737円の繰越金が生じたが,次年度に国際学会への参加費用に充てる予定である.
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