2022 Fiscal Year Research-status Report
A Study on the Development Process of "Anti-Communism and Preventing Japan Education" in South Korea in the 1950s
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22K02257
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
井手 弘人 長崎大学, 教育学部, 准教授 (70324374)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 反共防日教育 / アイデンティティ / 政治教育 / 韓国 / 経路依存性 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、国立国会図書館や九州大学等で、先行研究の収集と分析を中心に研究を遂行し、1950年代の政治動向および状況の整理、ならびに『新教育』など、当時の韓国の教育雑誌記事を通した実践記録や教育政策に関連した記事内容から、政治背景との因果関係について時系列に分析をすることができた。 さらに、現代韓国における対日観、ならびに教育における日本に関連した取り扱いとの経路依存性を把握する観点から、現在(とくに2000年以後)の「独島」に関する教育の展開についての動向を調査・整理・分析する機会も設けた。これは、1953年のいわゆる「李承晩ライン」設定による「独島」の占拠過程と関わることであり、当時の対日外交や世論形成にも大きな影響を与え、現在にも継続している、本研究課題の問題意識に密接に関わるものゆえである。結果として、ナショナルカリキュラムである「教育課程」で2011年以後、汎教科学習主題として設定された「独島教育」の枠組みと、同時期に広く展開された人文社会科学の研究環境整備における地域研究としての「独島学」推進とが両輪となって、システムとしての「独島教育」の構築を推進していることが把握できた。とりわけ、それにおける「日本」の位置付けは「侵略行為」の過程としての竹島領有権主張論理に対する警戒感であり、「独島」の生物多様性保護に積極的に関与している大韓民国という位置付けと対置する認識になり得るようなストーリーがあった。一方で、その「ストーリー」を知識として伝達するような構造にもなっておらず、あくまでも学習者の主体性においてストーリーが確立していくような学習プログラムデザインがなされている点も把握できた。 1950年代と現代とをつないで経路依存性を把握する理論として、社会心理学等で近年注目されている「アイデンティティのファンド」概念を本研究で導入し、分析を推進することとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は資料収集とその整理・分析を行うことを計画上の中心に据えていた。このことについては、「コロナ禍」の状況推移を想定し、もともと国内でできることで準備する予定にしていたので、おおむねうまく進捗したと評価している。さらに、国立国会図書館デジタルコレクションの機能が拡充し、1950年代以後の資料も多く閲覧可能となったため、とくに日本語文献については図書館等に出向かなくても入手できることができ、よりスムーズな進捗となった。 また、歴史研究としての現代との「経路依存性」について、「アイデンティティのファンド」概念を用いて分析する方向性を定めることができた点も、大きな進捗として表明できることである。これは本研究課題が、過去の掘り起こしにとどまらず、現代の状況に連続する関係をもったことである点を説明するために重要である。同時に、韓国に対する「反日」という語がわが国からの一方的な視点にとどまった表現であり、「防日」概念の形成と浸透が現代にも透徹しているところに現代の韓国における対日観の基盤があるという、文化内在的な分析視角を今後説明していくためにも重要なことであり、その視点を研究初年度に確定できたことは実績としても大きい意味があった。 さらに、こうした研究過程における成果を、内閣府主催のセミナー(「領土・主権セミナー」)や竹島問題研究会(島根県)において発表し、広く伝える機会を得たことについても、順調に進展している点としてあげることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、外国旅費として計上したアメリカおよび韓国への資料収集調査ならびにインタビュー調査を集中して進める。アメリカ国立公文書記録管理局等、1950年代の朝鮮戦争以後の対韓教育援助における史資料収集とともに、当時の関係者および関係者を知る人物へのインタビュー調査なども行って、全体像の把握に努める。 同様に、韓国においても、国会図書館や国立中央図書館等、当時の史資料収集を本格化させるとともに、インタビュー調査を行いつつ、学会等にて中間的な報告も行う予定である。 2023年度における調査結果に基づく補完的な現地調査は2024年度も継続して行い、とくに「アイデンティティのファンド」概念を導入した分析の遂行を本格化させる。
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Causes of Carryover |
もともとは、大学にない史資料を取得するための国内旅費および印刷費として活用する予定であった部分のうち、「コロナ禍」による移動制限等があり、かつ、制限緩和後での移動機会を確保することが他業務との関係で困難であったこと、さらには国立国会図書館デジタルコレクションの運用が変更され、国内資料の入手の利便性が大幅に高まって現地移動の必要がなくとも多くの資料確認と収集が可能になったため、次年度使用額が生じた。 こうした理由をふまえ、前年度に行くことができなかった東京への調査についてあらためて使用し、とくに国立国会図書館内に閲覧限定されている資料等についての収集を、集中的に実施する計画である。
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