2023 Fiscal Year Research-status Report
A Study on the Development Process of "Anti-Communism and Preventing Japan Education" in South Korea in the 1950s
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22K02257
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
井手 弘人 長崎大学, 教育学部, 准教授 (70324374)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 反共防日教育 / アイデンティティ / 政治教育 / 韓国 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、米国バンダビルト大学附属図書館に所蔵されている、ジョージピーボディカレッジ「韓国プロジェクト」の報告書内容の詳細を確認するとともに、朝鮮戦争後の東アジア政治情勢について李承晩大統領および韓国「第1共和国」期の与野党における対日スタンスを、主に当時の報道から確認した。 研究の過程において、 いわゆる「李承晩ライン」をめぐる日韓双方の「国境」認識が、とくに漁業を主産業としていた地域において急激に顕在化し、日韓それぞれの対韓・対日観を形成していった点の重要性に気づいた。そこで、対馬市佐須奈地区を事例に、終戦以前は大陸への航路上の「経由地」であった場所、かつ漁業が主産業である地域の80代以上の方々にインタビューをし、戦後「国境」が形成されていく過程における対韓観はどのようなものだったのか、戦前と戦後の認識の「境目」を日本側から辿っていく調査を実施した。 さらに、韓国側からも、釜山を事例として地域史的視点から対日観の形成過程を調査し、朝鮮戦争後の大韓民国アイデンティティ形成における日本の存在が、政治的与野党対立ならびに強い大統領中心制の権力集中のシステムにおいて大きな要素として機能していた点を確認することができた。 このように、「国家間史」のみならず、東シナ海をはさんだそれぞれの「地域史間」も含めて重層的に形成される対韓・対日観双方の過程で、「反共」や「防日」が教育のなかでどう描かれ、機能を期待されていたのかを捉えることができた点が、大きな研究実績ということができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
米国側資料については、想定よりはやくデジタル化された所蔵資料を入手することができ、現地訪問による資料収集の前に、国内にいながらその内容を把握することができた。 一方で、研究遂行過程で、日韓双方の「国家間史」で捉えるだけではなく、「国境」にかかる教育現場への影響という観点から、さらにそれぞれの国の地域史(とくに、海に面し、漁業等地域の主たる産業と深いつながりのある地域)の視点から、本研究のケースを詳細に確認する必要性に気づき、そこへも新たに着手した点は、「進展」であると同時に、新たな課題がうまれたと言う点において遂行すべき研究対象が増えたことになり、当初計画とのバランスを考慮しながら進める必要性が出てきた。 さらに、政治と教育との関係という観点から、わが国ではこれから発展が期待される「教育政治学」的アプローチ(とりわけ、「カリキュラム・ポリティクス」に係ること)からの整理の必要性も見えてきた。 これらの点を考慮して、「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、研究の最終年度として、1950年代における政治状況と教育との関連から、韓国における「対日観」の形成過程を明らかにするとともに、「道義教育」としての「反共」「防日」思想が、アメリカ対韓教育援助による教育方法の浸透とともに、「修復後教育」の文脈で具体的にどのように展開・定着していったのか、事例をふまえて明確にしていく。 また、日本における対韓観と教育との関連も同時代的にとらえ、韓国だけの「対日観」研究にとどまらず、日本における「対韓観」との相互作用として「反共防日教育」がどう自己強化していったのか、システム論的に説明していく。 これらのことを報告書にとりまとめ、公表に向けた活動を展開していく。
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Causes of Carryover |
もともとアメリカに所蔵されている資料について、当初は現地に赴き入手することを想定していたが、それらの資料が電子化され日本国内でも入手可能となったため、日常業務の時間を割いて無理に渡米するより電子化されて入手可能な資料を使って確認する作業を国内にて行うほうが合理的と判断し、訪米を翌年度(2024年度)に動かしたことが主たる理由である。 今年度は電子化資料をもとにしたより深い調査を訪米・訪韓を通じて行うこととし、次年度使用額についてもそれに充当する。
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