2022 Fiscal Year Research-status Report
“視野の共有=プロの目の借用”が歯科治療技術向上に与える影響の解明
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22K02281
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
藤井 規孝 新潟大学, 医歯学系, 教授 (90313527)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長谷川 真奈 新潟大学, 医歯学総合病院, 講師 (90779620)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 歯科臨床技術 / 客観的評価 / バーチャルトレーニング |
Outline of Annual Research Achievements |
歯科治療技術は常に基本を身につけていることを前提に進化するが、歯科にも学習者に自らの経験に基づく自己学習によってのみ会得することができる技術がある。そのため、効果的な歯科治療技術の教育法の開発は喫緊の課題と認識されつつも具体的な方法が見つけられていなかった。本研究は、この問題を解決するために、本来術者にのみ見ることが許される狭小な歯科治療時の術野を教育素材として利用し、熟練者の治療を疑似体験で学習することの有用性を検討する。患者に信頼される歯科医師を育成することは歯科大学や歯学部にとって第一義の社会的使命である。一方、技術の進歩はめざましく、特に治療に様々な材料や器具を用いる歯科においては、術者がこれらを用いた基本的な歯科治療技術を習得していることを前提に、次々と発展・応用的な治療法が紹介されている。しかし、歯学生の学習内容は年々増加傾向にあり、超高齢化を迎えて益々複雑化した近代社会では以前のように学生が歯科治療を実地に学ぶ機会を設けることが難しくなっているため、免許を手にしたばかりの歯科医師が基本的な歯科治療技術を身につけているか?という質問には疑問符がつく。これは、ITの活用などによって飛躍的な効率化が図られた知識領域の教育方法に比べると、技能の教育はインストラクターによるデモンストレーションの模倣やマネキンを使って繰り返し治療の練習を行うことが主体の自己学習・訓練型の実習という従来の方法から大きく変わっていないこと、治療の手技や動作を客観的に評価することは非常に困難であること、に関係していると考えられる。本研究は、現在の歯科治療技術教育が抱える課題の解決方法を模索することを目的として行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は、これまでの研究において独自に開発した歯科治療時に術者が患者に加える力の大きさを可視化する装置(フォースゲージ付改造マネキン:以下マネキンとする)を用いて、歯科治療時の力のコントロールの教育に応用することを試みている。この研究の結果から、客観的な情報が歯科における臨床技術の教育にもたらす効果を検証した。すなわち、通常の方法では可視化することができない力の大きさを数値で示すことが学修者の技術定着に密接に関係することを確認した。歯科治療には各種材料や器具を用いて行うという特殊性があり、これらの器材を使用する際に適切な力を加えることが治療技術に含まれる。また、力の大きさ同様、治療時に術者が確保している視野(術野)についても通法では可視化、共有することができない。特に歯科治療は狭小な口腔内で行われるため、正確に処置を行うために必要な術野は学修者にとってもっとも参考になる術野と重なり、治療見学によって学修者が得る情報は限定的である。さらには、口腔内には直視することが難しい場所があるため、歯科においては鏡に映した術野で処置を行うミラーテクニックが用いられることがある。ミラーテクニックは基本的な歯科治療技術の一つに含まれるが、上記の理由により経験の浅い術者が苦手とする処置の代表格になっている。そこで、熟練者との術野の共有が学修者に伝える情報の教育効果を確認するために、ミラーテクニックより条件設定が容易な縫合を題材として準備を進めた。具体的には、術者の視点で術野を記録することができるカメラを用いて動画教材を作成し、縫合を客観的に評価することのできる装置を用いてその教育効果を確認する実験の準備を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
専門的な治療技術の学修過程においては、初心者が経験する失敗は本質的に似通っており、同じ失敗を繰り返さなくなるためには経験を必要とすることが少なくない。術者の成長過程には共通の学修項目が存在すると考えられるが、特に歯科治療においては見学によって学修者が得る情報は限られている。さらに、様々な治療器具や材料を用いて行うという歯科治療の特性上、器材の使用方法も治療技術に含まれるという特徴があり、学修者は職人の勘所のようなものをつかむことが必須になる。加えてこれらは感覚の領域に含まれることが多く、文章や写真などでは説明することができない。切削や抜歯など外科的侵襲を含む医行為を行う歯科医師に求められる治療技術には外科的処置が含まれ、縫合はもっとも基本的且つ重要な処置に相当する。令和5年度は、器具を用いて縫合を行う器械結びについて、令和4年度に準備を進めた材料を用いて術者の視野を共有することが学修者の技能向上に与える影響を確認する。被験者は研修歯科医を中心に、臨床実習および臨床研修のインストラクターを務める歯科医師、臨床実習中の学生などにも対象を拡大して募集する。得られた成果は関連各種学会において発表し、歯科臨床教育の現場で活躍する他の研究者と積極的に意見交換を行う。最終的にはさらに複雑な条件設定が必要になる鏡視下における歯科治療技術にまで研究対象を広げることを目的として、術野の共有がもたらす教育効果を検証するための実験系の確立を目指す。
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