2023 Fiscal Year Research-status Report
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22K02294
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
村松 灯 帝京大学, 理工学部, 講師 (70803279)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 智輝 山口大学, 教育学部, 講師 (60780046)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 教育 / 公共性 / 学校選択制 / 新しい公共 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度に実施した研究の成果として、次の二点が挙げられる。 第一に、1990年代に教育学において新しい公共性論が受容された背景を明らかにするため、教育に関する新自由主義的改革の進行と、それをめぐる議論の状況を整理したことである。とりわけ学校選択制をめぐっては、教育社会学者の藤田英典と教育行政学者の黒崎勲の論争をはじめとして、教育学全体で活発に議論がなされた。そこで前景化したのが教育の公共性をめぐる問題であり、教育における公共性パラダイムは1980年代以降のこうした議論をさらに発展させるかたちで形成された。本研究では、公共性パラダイムの形成に対する影響という観点から藤田と黒崎の論争を検討し直し、公共性パラダイムのなかでその議論の何が引き継がれ、教育の公共性に関する論点がどのように深められた(あるいは、深められなかった)のかを明らかにした。 第二に、教育における公共性パラダイムのその後の展開を明らかにするため、「新しい公共」をめぐる言説と政策の展開について、政治学における議論を手がかりに整理したことである。教育における公共性パラダイムは、政治学における「新しい公共」に関する理論と実際の政治動向に影響を受けつつ形成され、それとの密接な関連のもとに展開してきた。そこで、宮川裕二『「新しい公共」とは何だったのか』(風行社、2023年)を主な先行研究として、公共性をめぐる言説と現実政治における統治性の変容のありようについて整理し、教育における公共性パラダイムの特殊性とその思想史的含意を検討していくための視座を得た。 以上二点により、教育における公共性パラダイム形成の前史を明らかにするとともに、その変遷史を描くための準備を進めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画の通り、公共性パラダイムの形成と展開に関して、教育学や政治学における議論、および、現実政治の動向に目配せしながら検討を進められているため。2023年度は学会発表を行い、これまでの研究成果をアウトプットするとともに、フロアとの質疑応答等を通じて、今後の具体的な作業課題についての手がかりも得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究について、以下の二点を念頭に進めていく。 第一に、2023年度に実施した研究の成果を発表し、議論を深めていくことである。研究を進めるなかで、研究の射程をより広げるうえで、新たな取り組むべき作業課題が明らかになった。そのため、2023年度に投稿を予定していた論文は、その新たな課題に関する成果を盛り込むかたちで構想し直し、2024年度中に執筆・投稿するものとしている。 第二に、2023年度の研究成果をもとに、公共性パラダイムの変遷史を描き出すことである。「新しい公共」に関する言説および現実政治の動向との対応関係に着目しつつ、教育における公共性パラダイムの特殊性を明らかにするとともに、そこで何が問われ、何が問われてこなかったのかを検討する。その際、「アカウンタビリティ」概念をひとつの参照点とする。アカウンタビリティは、パラダイム形成期における学校選択制をめぐる論争のなかで、立場をこえて重要性が論じられた概念のひとつであり、その後も公共性パラダイムの論者によってさまざまに学的検討が重ねられてきた。また、1990年代以降の現実政治ないし教育改革においても、一貫して重要な位置づけを与えられてきている。アカウンタビリティをめぐる言説と政策の動向を検討することで、教育における公共性パラダイムの批判の対象や議論の内実がどのように変容したのか、そして、その議論が現実の政治動向や教育改革に対してどのようなインパクトを持ちえたのか(あるいは、持ちえなかったのか)を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
先述の通り、研究成果をよりよいかたちで発表するため、2023年度中に予定していた論文の投稿を見合わせたことにより、論文の執筆および投稿に向けた研究分担者との打ち合わせや研究会、資料収集のための旅費の支出が、当初の計画よりも少なくなったため。代わりに新たな作業課題への取り組みが進められたため、研究の進捗に影響はない。 次年度使用額は、2024年度に繰り越された上述の旅費、および、物品(文献)の購入に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)