2022 Fiscal Year Research-status Report
ケアリング論における教育者と子どもの関係に関する思想的文脈の再検討と実相の分析
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22K02297
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Research Institution | Sugiyama Jogakuen University |
Principal Investigator |
伊藤 博美 椙山女学園大学, 教育学部, 教授 (50410832)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ノディングズ / ケアリング / フェミニズム / 関係性 / 対話 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は第一に、中部教育学会第70回大会(信州大学教育学部にて7月3日開催)において、「ケアリング教育理論におけるfidelityの位置」と題して個人研究発表を行った。そこでは、ノディングズのケアリング教育理論の思想的文脈について、女性性を重視したものから関係性を重視した転換の契機を、1986年発表の論文にあるとした。同論文で提示されたFidelity概念から派生したfaithfulnessは、後のノディングズのケアリング教育理論において、ケアする人が、原理ではなく人や関係へ向けるものであることを提示し、さらにもう一つaccuracyは、ケアされる人(のニーズ)の理解に関わるもの+知覚や認知に留まらない、empathyに伴うものであることを示した。ただし人や関係へのfidelityを強調するとケアの隷属・搾取的側面に対する批判が再燃しかねないことを懸念し、fidelity概念はノディングズの著作には見られなくなった。 第二に、日本デューイ学会第65回研究大会(オンラインにて9月25日開催)にて、「ケアリング教育理論における対話の様相」と題した個人研究発表を行った。ノディングズが、フレイレの示す対話(対話における参加者の平等と自由が変革をもたらす)とブーバーの示す対話(ケアする人とされる人の非対称すなわち不平等)を継承しつつ、受容や包摂などによる「わかったつもり」のリスクを回避するため、聞くことを重視し、またそれへの志向によって、対話における他者性を担保することを示した。ノディングズの示す対話は、相手を論破する”war model”の対話ではなく、fidelityを提示したようにあくまで相手を話題に優先しつつ、ただしconfirmationや変革をもたらすには批判的思考を経る必要があるものと結論づけた。以上二つの発表を1つの論文にまとめ、次年度刊行である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フェミニズムの文脈で捉えられていたノディングズのケアリングという概念を、ノディングズ自身が『ケアリング』の副題を改め、関係性という文脈で捉え直した経緯を明らかにすることができたから。またそれと並行して「対話」という概念のノディングズにおける変遷も明らかにすることができ、ケアリング関係にある教師や保育者と子どもとの関係の様相、また関わりの一つである対話の様相を理論的に明確にできたから。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は、ノディングズのケアリング教育理論を同じく幼児教育におけるケアリングに照射した佐伯胖の理論と、育てられる人から育てる人への関係的発達論を提示した鯨岡峻と比較検討することを通して、保育や教育におけるケアリング関係の現象学的様相を明確にすることを目標とする。 また令和6年度は令和5年度に明らかにした理論的様相をもとに、保育者や教師、またそれを志す学生のエピソード記述を収集・分析することによって、実相を明らかにすることを目標とする。
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Causes of Carryover |
令和4年度は、ケアリングなど欧米圏の教育思想に関する学会である日本デューイ学会大会がオンライン開催であったため旅費支出が減じたが、令和5年度の同学会大会では対面での開催が広島大学で予定されている。 また令和5年度は、ケアリング理論と佐伯胖や鯨岡峻らによる乳幼児発達や保育に関する理論の比較を行い、発表を予定している。その発表の場となる保育士研修、保育者養成に関連する学会等も対面開催が予定され、発表のために旅費支出が増額する予定である。
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