2022 Fiscal Year Research-status Report
Research on the development of sustainable learning environments and curricula based on linguistic and cultural diversity
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22K02329
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
宇都宮 裕章 静岡大学, 教育学部, 教授 (30276191)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 言語文化的多様性 / 持続可能な教室環境 / 学習場 / 対話論 / 生態学的教育論 |
Outline of Annual Research Achievements |
全国の学校において漸次的に進行している多彩な価値観の顕在化=言語文化的多様性の状況を最大限に活かした誰もが分け隔てなく学べる教室環境を創出し持続させることを目標に、 当該状況への調査と参画を通して潜在する実践知を発掘し、対話による学びの促進理論の妥当性、対話的活動の実効性、対話の教育的貢献機能と学びの場との関係性を検証する。この検証過程を経て、現場自らの主体的かつ容易な実践化を可能とするカリキュラムモデルを開発し、様々な教育活動へ永続的に適用できる良質な教室環境構築への基本方針を確立する。 本研究は「対話的活動が人間営為の根幹を成し、個と公の形成双方に介在する」という見解=生態学的教育論に依拠している。これは、本研究が主題としている学習場についての考察を支持し、学習場の形成に着目することが現代の深刻な教育問題解決への切り札にもなることを予測するものである。その対話の教育的意義については、レオンチェフによって、対話を介した人間の「行動」が、個人的操作における課題、対人的行為における目的、集団的活動における動機という「意識」を生み出すことが明らかにされている。これが現代の生態学的教育論に踏襲され、個人と環境を繋ぐ働きが対話的な行動にあるという捉え方に展開している。個人的な発達段階の指標と考えられてきた言葉の力も環境全体の力であり、その力が個人と環境との対話的な相互作用の中で進展するという原理に則り、力量の違いや多様な価値観を背景としてもつ子どもたちを共栄者に巻き込む。こうして、互いに質の異なる者を教室の全成員の学習活動に寄与するかけがえのない学習機会創出者とみなす。 本研究にて開発を目指す個人と環境に通底する教育課程は、柔軟な参照性を備え、教員の狭義専門性に左右されない教科横断的学際性を伴い、その適用範囲が広がる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、全期間を以下の3期に分けて遂行する計画を立案している。 A.教育的営為に貢献する諸事例の分析(解析期)、B.成果還元を通しての学習支援(検証期)、C.理論の完成と教育課程のモデル化および周知 (提唱期)の3段階を経て、フレイレの言う省察と行動を分断しない「理論即実践」という対話を基軸とする教室環境の構築方策を提唱する。 期間内に「実践知には何があるか」「開発した学習場は有効か」「良質な教室環境をどう維持するか」の問いを有機的に関連づけ、「対話行為 →環境創出→環境良質化→学習促進→対話行為」というサイクル理論の妥当性、授業等実践における対話的活動の実効性、および対話が教育に寄与する機能と子どもたち同士の学び合いの場との関係性を立証する。 本年度は解析期に相当している。計画に則り、以下を実施した。1.フィールドワーク=実践知の発掘:協力者(学生等)派遣を通して学校・学習支援調査を展開、その過程を記録した。現場資料・文献調査も並行して実施した。また、現状把握を趣旨とした事例視察や児童生徒・教員・管理者等への聞き取りによるニーズ調査を行った。得られた諸知見は教員養成学部内の講義等に反映し、調査法の洗練を図った。2.アクションリサーチ=理論と実践の往還:協力校にて対話的活動を主目的とする教室を創設する。運営案を協力者と協議の上直ちに実践に供し、当該実践過程を記録・分析し、分析事項を再び協議にかける方法を繰り返す。精査した運営案の理論化に向けて考察を行なった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、研究計画の検証期と提唱期を迎える。検証期においては、1)教室の拡充: 解析期の成果に基づいた教室を発展させる。学校・教委・大学間連携により学習場を立案し、学生等の協力を得て教材提供・教室運営等を行う。2)対話的活動の活性化を図る支援: 既存教室での検証を通して子どもたちの交流を促進し学習を拡張する学校(教室)支援を行う。現場の自律的運営に向けた方策を提供する。3)評価方法と制度整備への提案: 継続的な検証によって子どもの変容性を考慮した形成的評価を随時実施し、学習場形成の過程を試行的カリキュラムとして整備する。4)教育実践の意味づけ: 現場の高度な実践知を本研究理論で裏付けし、優れた実践例を国内外に広く周知する。実務的見解を集約して理論の完成度を上げる。提唱期においては、研究完遂を目標に次の事業に取り組む。教室環境構築理論の精錬・教室環境評価基準策定・カリキュラムモデル提唱と 適用・教育課程実施要領整備・研究総括と評価・所属学会での公表・ウェブサイト制作・著書論文刊行・各種還元活動の継続・シンポジウム開催、等。 直近の課題として、できるだけ多くの検証場の確保と、検証時間の捻出のバランスをどのように取っていくかという問題がある。場を多くすると汎用的な成果を上げやすい一方、場面に費やす検証時間が相対的に少なくなるため質を担保できなくなる。したがって、今後は理論の一般化を急がず、質的実践研究を優先する方法で推進していきたい。
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Causes of Carryover |
研究調査協力機関(学校および教室等)が当初予定していた数を下回ったため、旅費と謝金への支出が少なくなった。次年度からは、外部への研究発表の機会を増やして成果の周知を行うと同時に、研究に資する文献・論文等の収集にも力を入れる。
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Research Products
(2 results)