2023 Fiscal Year Research-status Report
インターセクショナリティから捉え直す異文化間教育―ドイツの議論を参照して―
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22K02341
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
伊藤 亜希子 福岡大学, 人文学部, 教授 (70570266)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | インターセクショナリティ / 異文化間教育 / クィア / カテゴリー / 政策分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はインターセクショナリティを分析ツールとして導入しているドイツの異文化間教育学における議論を参照し、権力関係や構造的差別の分析が今日の異文化間教育の研究・政策・実践にいかに影響を及ぼし、それぞれの議論を深化させ、構造的差別の是正を目指しているのか解明することを目的とする。 昨年度の研究成果を踏まえ、2023年度は異文化間教育を捉え直す視角を広げ、クィア・スタディーズに着目し、移民に加え、人種、ジェンダー、セクシュアリティなども扱った先行研究を収集し、整理した。それを踏まえ、異文化間教育学会第44回大会(於東京都立大学)では、「クィア」×「家族」、「クィア」×「移民」×「イスラーム」というカテゴリーに着目した先行研究から、ドイツ社会に受け入れられる側面と捨象される側面が生じる構図を描き出した。そのうえで、インターセクショナリティが捨象される側面を拾い上げる可能性や移民社会ドイツにおける表象や規範の問題にどう取り組むかが課題となることを指摘した。これについては、所属機関の学部紀要に論文としてまとめた。 また、インターセクショナリティを分析視点とした政策研究に関する先行研究を整理したことから、そこで得られた知見をもとに、日本の外国人児童生徒等教育をめぐる教育政策について、インターセクショナルな政策分析を試みた。これは、国際異文化間教育学会(International Association for Intercultural Education, IAIE)の年次大会(ドイツ・ケムニッツ工科大学)で報告し、欧米をフィールドとする研究者から有益なフィードバックが得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は2回渡欧し、ドイツ教育学会学校教育学部門研究大会(ブレーメン大学)、国際異文化間教育学会年次大会(ケムニッツ工科大学)に参加し、ドイツを始めヨーロッパにおける研究動向についても情報収集を行うことができた。特に後者の学会は、年次大会のテーマが本研究テーマに大きく関わり、最新の研究にも触れ、研究交流を行うことができた。 インターセクショナリティを視点に研究する際に鍵となるカテゴリーについても、移民の文化的背景のみならず、ジェンダーやセクシュアリティなども含め幅広く先行研究を整理することができた。さらに、その成果の一部を学会発表し、論文化することができた。以上から、おおむね順調に研究を進めることができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は研究成果をとりまとめる年にあたる。2022~2023年度の研究成果を踏まえ、以下の通り進めていく。 第一に、移民の文化的背景だけでなく、ジェンダーやセクシュアリティを含めた多様性を包摂する学校開発や教師教育の実践について文献研究及び現地調査を実施する。 第二に、研究・政策・実践の連関を意識し、これまでの研究成果を踏まえて、構造的差別是正に向けた異文化間教育の取り組みとインターセクショナリティがそうした取り組みにどのように活かされているのか、整理する。 第三に、上記を踏まえて、インターセクショナリティから異文化間教育を問いなおすことで、日本における異文化間教育学の課題克服と議論の進展に向けた示唆を検討する。 以上について、日本比較教育学会で発表するほか、所属機関の研究紀要や学会紀要への論文投稿を目指す。
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Causes of Carryover |
2022年度に新型コロナウイルス感染症による渡航緩和が進んだものの、予定していた海外調査を実施することができず、2023年度に繰り越しが生じたため、予定とは異なる執行状況となっている。最終年度である2024年度もこれまでの調査研究の補完とレビューを兼ねて海外調査を予定しており、急激な円安とドイツ国内の物価高の影響を受け、当初の予算を上回る可能性が大きい。そのため次年度使用額については、旅費の補填に充てる。
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