2023 Fiscal Year Research-status Report
戦後初期私立大学における教員養成の再編と機能に関する歴史社会学的研究
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22K02364
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
太田 拓紀 滋賀大学, 教育学系, 教授 (30555298)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 教員養成 / 制度化 / 私立大学 / 歴史社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は主に、戦後初期の私立大学が小学校教員養成をいかなる論理で制度化したのかを検証し、論文にまとめた(『滋賀大学教育実践研究論集』第6号)。その際、最も早期に小学校教員養成に着手した4大学に焦点化し、養成を制度化した理由と背景について,申請書の内容や当事者が残した記述等を中心に検討した。 その結果、それらの私学は、附属・系列の小学校をもつなど教育実習の場を確保しやすい大学ではあったが、一部の大学では当初から学外での教育実習を模索しており、実習先の確保が必ずしも決定的な条件ではなかった。一方、それ以上に養成の制度化に影響したのは、各大学の歴史的・文化的条件と考えられた。例えば、ある私学は戦前からリベラルアーツ教育を基盤に中等学校の教員養成を実施していた。また、別の私学はもともと教養系の教育機関として出発しつつも、従来から女子の職業教育を重視しており、教員養成とのつながりが深かった。さらに、大学創設者が教師教育に関わる理念を強く抱いており、それが具現化したという事例もあった。 以上とあわせて今年度は、戦後初期における中等学校の教員養成の制度化についても、資料収集を蓄積した上で、論文執筆を開始している。戦前に中等学校教員養成を目的とするセクション(高等師範部など)を設けた私学は十数校ほど存在したものの、ほとんどは戦後に文学部などの一般学部に再編されていく。一方、高等師範部の後継として教育学部を設置し、教員養成を主たる機能とする学部を持ち続けた私学もあった。ただし、教育学部への再編時には、文学部との競合問題などで学内や設置審査で軋轢が生じたとされる。大半の私立大学が高等師範部を戦後に一般学部に改変していく過程と、一部の私学が教育学部を存続させた理由と背景を検証することで、戦後私立大学の教員養成の特質が浮き彫りになると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和5年5月、新型コロナウイルス感染症の5類への移行に伴い、研究対象の私立大学がある東京方面の出張に制限がおおむねなくなった。それまでは、各種資料を所蔵する私立大学の図書館等の施設も、原則として学外者の訪問を受けつけていなかった。しかし現在、訪問と利用が可能になっている。本テーマは大学所蔵の資料の入手が研究の成否を決定づける重要な要素となるが、ようやく令和5年の途中から資料収集を行う環境が戻っていった。その結果、研究の遅れが少しずつ改善されていき、最終的には論文を執筆するまでに至った。今年度も引き続き、各種施設への訪問を継続し、資料収集と成果公表に努めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究が用いる資料は主に私立大学の図書館や資料室に所蔵する大学の年史、大学新聞・雑誌、各種公文書であり、まずは引き続き資料収集に努めたい。とりわけ教員養成に関わる意思決定とその過程が分かる文書は、本研究の最重要資料であり、注力して探索を行う。なお、養成の制度化を促す外部要因としては戦後当初の教員養成政策、内部要因としては各私学の理念や経営方針であることが分かってきており、この点への目配りも引き続き行いたい。また、新制度学派の組織論が、教員養成の制度化を十分に説明できるかについても、継続して検討する。
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Causes of Carryover |
5月にコロナウィルス感染症が第5類に移行し、それ以降、研究対象の私立大学が所在する東京への出張はしやすくなった。しかし、資料所蔵施設の外部の受け入れは必ずしも直ちに再開された訳でなく、また資格関連行事の準備など学内業務の増加もあり、年度前半は出張機会が限定された。結果的に、旅費とそれに伴う各種の支出額が見込みより少なくなった。最終年度である次年度には、主に旅費として繰り越すこととしたい。また、次年度は学内の管理職(副研究科長)を担うことが決まっており、大幅な学内業務の増加が見込まれるため、一部をバイアウト経費として充当したい。
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