2022 Fiscal Year Research-status Report
体育科の学習指導論へのCapability Approachの適用可能性
Project/Area Number |
22K02510
|
Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
黒川 哲也 九州産業大学, 人間科学部, 教授 (50390258)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 体育の学習指導論 / capability approach / グループ学習論 / collective capability / 平等 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である2022年度は,Amartya Sen及びMartha NussbaumのCapability Approach(CA)の理論的内容を明らか異するため,両者によるCA関係文献及び彼等のCA理論にもとづく広範な文献の検討を行い,両者に共通する特徴と相違点について明らかにした.つまり,Senが人間の多様性の観点から「分配的平等」原理を批判し,主体の結果(functioning)だけでなく,彼等が自ら価値を置く存在様式・行為を選択する自由(capability)を平等の判断基準とした点は,Nussbaumにおいても共通していることが明らかとなった.他方,Senがすべての個人に保障されるべき基本的ケイパビリティのセットを同定することに消極的であるのに対し,Nussbaumはすべての個人に保障されるべき「10大人間的ケイパビリティのリスト」を提案している点で両者は異なっている.CAを教科指導に適用しようとする場合,SenのCAよりも具体的なfunctioningを想定する余地を残すNussbaumのCAに依拠する方が有益であると考えられる. ただし,両者のCAに対しては「過度に個人主義的である」という批判が存在しており,複数の論者が集団を個人的capabilityを規定する要因としてだけでなく,所有主体として捉える「集団的ケイパビリティ」と呼称可能な複数の概念的提案が行われている.これらは,capabilityの所有主体として集団を捉えるものと,capabilityの獲得・拡大にとって集団が不可欠であることを強調しつつも,所有主体としては捉えないものとが存在することを明らかとした.このうち教科における学習集団論を発展させるためには,前者の捉え方が重要であることを確認した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度である2022年度は,Sen及びNussbaumのCAにおける理論的共通点と相違点を明らかにし,併せてcollective capability概念の理論的内容を明らかにすることを目的としていた.以上二つの課題については,多数の文献の検討を通じて明らかにすることができた. 併せて2023年度以降の課題としている中学校体育教師へのインタビューによって,彼等の「体育科の学習指導」及び「保障すべき平等の中身」についての予備的なインタビューを複数実施することができた点で,当初の計画以上に進展していると考える.
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は,初年度に明らかにしたCAの理論的特徴を土台に,中学校体育教師へのインタビューを本格的に実施し,彼等の学習指導及び保障すべき平等についての認識についての資料を収集する. 同時に,戦後体育科における代表的な学習指導論である「めあて学習」論及び「グループ学習論」,そして「主体的・対話的で,深い学び」論に含まれる平等主義的側面/不平等主義的側面を明らかにすると共に,これらの理論における「個と集団」の捉え方について検討する. また,2024年度実施予定の研究授業の研究協力者・協力校への依頼・承諾及び授業計画の立案に着手する.
|
Causes of Carryover |
購入予定のcapability approach関連文献及び図書の多くが所属研究機関が契約する研究情報データベースに掲載されており,購入の必要が当初予定より低額で済んだため.また,旅費については,コロナ禍の関係もあり,複数回の打合せを予定していたものの,予定回数よりも少数となったため. 2023年度には,体育科の学習指導論関係文献の収集および中学校体育教師を対象としたインタビュー及び実験授業実施のための研究協議及び所属学校への研究協力依頼のための旅費として使用する.その際,インタビュー及び実験授業の対象とする教師・学校をより広範囲に求めるため,旅費の使用が増加する予定である.
|