2022 Fiscal Year Research-status Report
視覚障害児者の鑑賞に対応する触図の翻案と材料開発の研究
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22K02547
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Research Institution | Kyoto University of Education |
Principal Investigator |
日野 陽子 京都教育大学, 教育学部, 准教授 (90269928)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 視覚障害者 / 美術鑑賞 / 触図 / 対話 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、視覚障がい児者が使用して鑑賞を楽しむことができる触る(さわる)ツールの制作、開発を目的としている。これは、美術作品の触図と、(見えている状況に基づく)解説・鑑賞の文章を点訳してセットとしたものである。対象作品は、主に高松市美術館が所蔵している現代作家による絵画とする。2022年度は、試行的に当館の一作品を選び、触図化する許可を得た。紙材による原型を作成し、真空成形機(Vaquform)にかける作業工程で、紙材の種類や厚さ、Vaquformにかける温度等を試行錯誤中である。樹脂シートは0.25mmのPETGを購入、使用しているが、耐久性や硬度等がさらに理想的なブレイロンの国内購入が困難になっているため、入手ルートを探っている最中でもある。 また、2021年に全館の随所にバリアフリーを導入してリニューアルオープンした長野県立美術館に赴き、建物や展示室の視察と共に、インクルーシブ・プロジェクトのために作成されたさまざまな触るツールや教材を見学し、担当学芸員から説明を聴いた。三枚折になった触図シートは、①原画の縮小カラーコピーと作家・作品の基本情報(墨字)、②作品についての説明(かたち、描き方、題材、鑑賞のヒントを墨字と点字で示す)、③触図(バーコ印刷)及び作家・作品の基本情報(点字)、という構成になっており、コンパクトにまとめられている印象を受けた。2022年11月には当館より依頼を受け、インクルーシブ・プロジェクト「みるを考えるー見えない人と見える人が一緒にみるためにー」で講師を努め、見えない人と見える人総勢約40名でコレクション展の鑑賞を行なった。これによって、鑑賞の自由な対話だけでなく、個々の視覚障害者の見え方や見えなさの状況、情報等「必要とされる対話」も導入し、見えない参加者が積極的に活動に取り組む姿が顕著であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題に関連した講演、講師等の外部からの依頼が重なった(これらは計画外であった)ため、本題である触図作成に繋がる絵画作品の翻案や材料研究に着手する時間があまり残らなかった。しかし、本題に至る歴史を辿り、現代に至る資料の研究や、それらを報告する内容の講演を行う機会を得たため、新しい意見や状況を知ることにつながった。(北海道大学「プラス・ミュージアム・プログラム」において、講演「共にみることを求めてー見えない人と共に新しい美術を切り拓くー」を行なった。また、長野県立美術館のインクルーシブ・プロジェクト「みるを考えるー見えない人と見える人が一緒にみるためにー」において講師を務めた。)
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Strategy for Future Research Activity |
視覚障害がある人々が触って理解し易く、鑑賞を楽しむことができる触図の材料や翻案(形の写し取り)の研究をさらに深めたい。今回初めて真空成形機を用いてみて、触って分かり易いことや耐久性の面に加え、作り易さの観点も意識するようになった。また、長野県と香川県を中心に、視覚障害がある人々や盲学校の先生方、美術館等との交流をさらに密接にし、言葉による鑑賞活動そのものを積み重ね、鑑賞・解説文の点字シートのより適切な内容や在り方を詰めると共に、見えない人々が美術に求めているものは何か、ということへの認識を一層深めたい。 今年度の計画としては、①真空成形機を用いた触図作成における翻案と材料の研究をさらに推進する、②触図作成の対象作品を現代絵画(香川県高松市美術館)と近代具象画(長野県東御市丸山晩霞記念館)に広げる、③鑑賞・解説文の内容をより洗練させる、④EasyTactixを購入し、弱視の人が色彩も確認、鑑賞できる触図の作成に着手する、を予定している。②は2022年度に信州の美術館や視覚障害の方々との交流が広がり、需要が明確になったためであり、④は香川県立盲学校の高松市美術館での教員研修のアドバイスを行った際、弱視の方が、濃くはっきりした色彩の作品を自ら選んでゆっくりと見て鑑賞する状況に出会ったためである。
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Causes of Carryover |
本研究の申請時には、研究のフィールドが主に香川県(高松市美術館)のみであったが、資料収集や視察のために長野県の美術館(長野県立美術館、東御市丸山晩霞記念館)を訪問したことを契機に、長野県の美術館や視覚障害者グループと連携して、鑑賞活動や触図の研究を行うことが加わってきたため。また、カラー立体印刷機を導入し、弱視の人が色彩も判別しながら鑑賞できる触図の作成にも展開していきたいため。
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