2022 Fiscal Year Research-status Report
昭和初期国語教育実践における「読み」のあり方に関する実証的研究
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22K02557
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
山本 康治 東海大学, 児童教育学部, 教授 (10341934)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
桑原 公美子 (北川公美子) 東海大学, 児童教育学部, 教授 (00299976)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 国語教育 / 文学教材 / 大正新教育 / ナショナリズム / 国定読本 / 口演童話 |
Outline of Annual Research Achievements |
大正新教育の影響を受け、国語教育では文学教材において、子どもの自由な「想像」を尊重する「読み」が成立した。しかしながら、昭和期に入ると、この「読み」のあり方は次第に変容していく。子どもの自由な「読み」は、次第にナショナリズムに組み込まれていくのである。その過程では、子どもの主体的で多様的な「読み」と作者重視の一元的な「読み」の対立の中、前者は、次第にナショナリズムの枠に「囲繞された主体的な読み」に変容していった。本課題研究は、そのプロセスを実証的に捉え、日本の言語文化形成にどのような影響を与えたのかについて検証することを目的とするものである。 研究系列Aでは、昭和初期に使用された第四期の国定読本所収文学教材に内包されたナショナルな視点の形成プロセスについて明らかにするため、同読本に関する先行研究を踏まえ、読本編纂者の残した資料、当時の風景画像に対する調査を行った。その結果、教科書所収版への改稿過程が明らかになり、その編纂の方向性を捉えることができた。 研究系列Bでは、昭和初期の国語科における文学教材の授業実践および幼稚園における言語教育実践史料の収集・分析により、子どもの「読み」(受容)のあり方について、ナショナリズムとの関わりについて継時的に明らかにすることを目指した。その結果、教育実践の場において、昭和6年以降、大正自由教育に源流を持つ、「児童主体」の姿勢を前提しつつも、国家主義的思想を標榜する教育実践事例が散見され、教育現場での「ねじれ」現象の様態を捉えることができた。 研究系列Cでは、課外読物や子どもが受容したメディア情報を収集し、その受容の実態について継時的かつ実証的に研究を進めた。童話連盟機関誌への調査を通して、口演童話の発展形としてとしてのラジオによる放送劇(理科童話 神話)が強いメッセージ性を以て子どもたちに影響を及ぼしていったことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度は新型コロナ感染症対策に伴う出張制限、また訪問予定機関(大学図書館、公立図書館)の利用制限により、計画よりも調査研究が遅滞した。ただし、実施された調査研究においては概ね当初の見込み通りの結果を得ることができた。各研究系列の進捗状況は、以下のとおりである。 研究系列Aでは、昭和初期に使用された第四期の国定読本の所収文学教材に内包されたナショナルな視点について明らかにするため、同読本に関する先行研究調査を行うとともに、同読本編纂者である石森延男のスクラップ帳(北海道立文学館蔵)に対する調査を行い、改稿過程から次第にナショナリズムに傾斜していく様相を捉えた。また、教材の舞台となった中国・大連の景観を踏まえ、教材生成の過程にどのような意図がみられるのかについて分析を行った。 研究系列Bでは、国語科文学教材の授業実践における子どもの「読み」の実践記録、幼稚園の教育実践記録の収集と分析を行った。国語教育については、鳴門教育大学附属図書館所蔵史料に対する調査を、また、教育・保育実践の場での文学教材の取扱、実践記録については、大阪、奈良の公立図書館に対する調査をそれぞれ行い、当時の回想録等から貴重な一次証言を得た。また、幼稚園におけるお話し、童話会等の実践記録の収集と分析も行った。ただし、予定した大学附属図書館および公立図書館への調査研究は実施できなかった。 研究系列Cにおいては、大阪、奈良の公立図書館での調査により、口演童話の昭和期での展開について明らかにした。特に奈良童話連盟の機関誌への調査からは、昭和期に入り、口演童話の実践にラジオ放送が大きく関わっていたことが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度に入り、多くの大学附属図書館、公立図書館の一般公開が再開した。2022年度分の未調査も含めて、予定通りのスケジュールで教育活動を展開したい。各研究系列の研究計画は以下のとおりである。 研究系列Aでは、昭和期に使用された第四期の国定読本所収文学教材に内包されたナショナルな視点の形成プロセスについて明らかにするため、第四期国定読本所収文学教材の言説分析、および第三期国定読本との比較研究を行う。また、これらの国定読本所収文学教材に対する同時代での評価を明らかにするため、東京高等師範学校と同附属小学校、及び各地(北海道、東京、奈良)の師範学校(附属小学校)機関誌に対する調査を行う。 研究系列Bでは、昭和初期の国語科における文学教材の授業実践および幼稚園における言語教育実践史料の収集・分析により、該当時期の子どもの「読み」(受容)のあり方について、ナショナリズムとの関わりのプロセスを踏まえ明らかにする。国語科文学教材の授業実践における子どもの「読み」の実践記録の収集と分析(東京高等師範学校附属小学校研究誌「教育研究」、及び各地(北海道、東京、奈良)の師範学校、同附属小学校研究雑誌、教育講習会記録等を対象とした実践記録、教案等を対象)を行う。また、幼稚園教育については、お話し、童話会等の実践記録の収集と分析を行う。これらを通して、大正新教育のもたらした「児童主体」の考え方が、どのように国家主義的思想に変位していったのかについて、そのプロセスを実証的に明らかにしていく。 研究系列Cでは、課外読物や子どもが受容したメディア(少年雑誌、ラジオ放送記録)についての記録の収集を行い、その実態について継時的かつ実証的に調査を進める。特に、口演童話のラジオ放送への展開状況について、全国的な状況を踏まえた観点から調査を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症対策のため、計画した研究調査が実施できなかった。2023年度は状況が好転し、様々な規制も解除されたため、未消化分も含んで計画を実施する予定である。
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