2023 Fiscal Year Research-status Report
体育授業の無事故化実現に向けた教師行動指針の開発と体育安全指導計画の案出
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22K02608
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Research Institution | J. F. Oberlin University |
Principal Investigator |
山口 裕貴 桜美林大学, 健康福祉学群, 准教授 (50465811)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 安全配慮義務 / 予見可能性 |
Outline of Annual Research Achievements |
体育事故の裁判例はいくつかあるが、2023年度は静岡地方裁判所の平成28年5月13日判決(損害賠償請求事件)を取り上げたうえで、「公立高校野球部における生徒の負傷事案に対する教師行動の適否の検討」と題し、『Journal of Kanagawa Sports & Health Science』(神奈川体育学会紀要)第57巻1号に投稿した。この裁判例を選んだ理由は、比較的新しい判決であることだ。判決文はこれまでに積み上げられた多くの裁判例を基にしてつくられるものであるから、より新しいもののほうが、誤りが少なく適切であるといえるからである。 結果、2名の査読者による厳格な査読を終えて、掲載に至った。内容や構成に法学研究者の意見を取り入れながら、運動部活動中の偶発的事故における教師の安全配慮行動に関する問題提起を行うことができた。具体的には、バッティング練習中の投手のヘッドギア装着の義務に関する教師行動の是非の考察である。 現場で部活動顧問を務める教師は、在学契約における安全配慮義務につき、正しい理解を深めるべきである。教師は、文科省やスポーツ庁、その他各種スポーツ団体から出されている指導の手引きを遺漏なく隅々まで読み込み、生徒とともに練習メニューや実践の仕方を計画・立案・実施すべきである。日頃から、自分に対し「これまで通りで問題ない」「事故など起こらない」といった「甘え」や「緩み」がないか、指導上の留意点に「漏れ」がないか、事故防止の観点に「見落とし」がないかを、自作のノートやスマートフォンのメモ機能などを使って確認・管理しておきたいものだ。万が一、事故が起き、裁判となってしまった場合、それらが自分を守る「証拠物」になりうることを深く心に停めておくことが肝要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
体育事故の様々な事案(裁判例)につき検討している。運動部活動の顧問の教師には、生徒の生命及び身体の安全を保護するための指導監督(安全配慮義務)を行うとともに、事故を予見し、回避すべき義務(結果回避義務)があるということについて、野球部を例に、教師ないし教師志望者に熟慮を促す材料を具体的かつ実用的に提示することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は次の点にも注意を払って検討したい。裁判所は「学校現場の実情」を積極的に考察していないのではないか。より多くの教師たちの意見を聞き、運動部活動の練習・試合における事故というものがどれほど偶発的なものであるかを審理していないのではないか。裁判所からの回答は得られないと思うが、元判事であった人物などから詳細を聞けるよう努力したい。 また、体育事故を含む、スポーツ基本法の条文に焦点を当て、そこから裁判例を抽出し、どのようなことがどういう経緯で紛争に至っているのか、それを解決する手立てはないのかを探りつつ、提言という意味での書籍を出版したいと考えている。
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Causes of Carryover |
2020年1月に刊行した『学校体育事故への備え-裁判所は何をどう見るのか』の続巻として『読んで考える学校体育事故裁判:教師が知っておきたい法的知識』を2024年上半期中に前書と同じ共同文化社から刊行する。また、下半期中に『体育理論の教材になるスポーツ基本法の裁判例-スポーツの法解釈を学ぶ-』を共同文化社から刊行し、体育・スポーツ事故のさらなる知的普及に努める予定である。
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