2022 Fiscal Year Research-status Report
エンジニアの課題解決能力に関する産学間の認識の違いとそれらを統合する試み
Project/Area Number |
22K02718
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
藤墳 智一 宮崎大学, 学び・学生支援機構, 准教授 (30248637)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 高等教育 / 工学教育 / 課題解決能力 |
Outline of Annual Research Achievements |
企業に勤めるエンジニアは、日々の課題の中で顧客ニーズ、品質、コスト、開発の時間、安全性、環境対応など互いに矛盾する複数のファクターの調整を図っている。また、課題解決に必要な技術は自分自身で見極め、習得しなくてはならない。仕事における研究開発と能力開発はつねに失敗のリスクと背中合わせである。これに対して、大学の講義や実験で与えられる課題には、そうした制約条件の設定が難しいものや、あらかじめ一定の答えが用意されているものが多い。 本研究の目的は、エンジニアが仕事で直面する研究開発と能力開発に関するこうした産学間の認識の違いを明らかにすることにある。その上で、双方で通用する課題解決能力の新しい概念を構築することを目的とする。研究の後半では、研究成果に基づき工学系学部の教育改善に向けた提言をおこなう。 課題解決能力の認識に関するデータは企業の人事担当者、企業の中堅エンジニア、工学系学部の教員、工学系学部の学生へのインタビューによって収集する。本研究では、仕事と大学教育を連結すべきリンクの欠落が2つのシステムのコミュニケーションを困難にしていると仮定する。そのため、データ分析ではそのようなギャップの検証が課題となる。 研究計画は(1)理論研究、(2)実証研究、(3)理論研究と実証研究の統合の3段階に分かれる。(1)理論研究は内容として文献調査、文献レビュー、仮説の構築を含み、(2)実証研究はインタビュー調査の実施、データの分析、(3)理論研究と実証研究の統合は結果の考察、改革への提言、研究成果の公表を含んでいる。2022年度は移動をともなう対面のインタビュー調査は実施せず、文献調査等の理論研究を中心に進めた。延期したインタビュー調査は2023年度に実施する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画は(1)理論研究、(2)実証研究、(3)理論研究と実証研究の統合の3段階に分かれる。(1)理論研究は内容として文献調査、文献レビュー、仮説の構築を含み、(2)実証研究はインタビュー調査の実施、データの分析、(3)理論研究と実証研究の統合は結果の考察、改革への提言、研究成果の公表を含んでいる。 2022年度は文献調査を中心に進めた。社会科学に関する理論について、学部レベルの教学マネジメント、イノベーションと課題解決、エンジニアのコンピテンシー、質的調査方法の領域を中心に調査した。エンジニアの仕事と育成をめぐる政策について、工学系学部教育改革、産学連携教育、テクノロジーとイノベーション、組織と人材に関連する実態を調査した。 社会科学理論ではD. コルブの経験学習の理論と野中・竹内のナレッジマネジメントの理論とを関連づけ、課題解決能力に関する仮説を構築した。それらは、インタビュー調査によってエンジニアの仕事と学習を解明しようとするときの理論的枠組みとなる。政策に関して米国の工学教育の歴史に関して米国技術者教育認定機構(ABET)が評価に用いる基準、および国際エンジニアリング連合(IEA)が制定する「修了生としての知識・能力と専門職としてのコンピテンシー」の変遷を中心にまとめた。たとえば、IEAは2022年に学部レベルを修了した者が身につけるべき能力の項目を再編し、工学の知識、課題の分析、デザイン、実験と研究、ツールの利用、環境と持続可能性、倫理、チームワーク、コミュニケーション、プロジェクトマネジメント、生涯学習の11項目にまとめた。文献調査の成果は著書『次世代エンジニアを育てる自己決定学習の理論と実践』(藤墳 2023)で活用した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、エンジニアが仕事で直面する研究開発と能力開発に関する産学間の認識の違いを明らかにすることにある。課題解決能力の認識に関するデータは企業の人事担当者、企業の中堅エンジニア、工学系学部の教員、工学系学部の学生へのインタビューによって収集する。本研究では、仕事と大学教育の間の認識方法の差違、あるいは両者をつなぐリンクの欠落が2つのシステムのコミュニケーションを困難にしていると仮定する。そのため、データ分析ではそのようなギャップの検証が課題となる。 研究計画は(1)理論研究、(2)実証研究、(3)理論研究と実証研究の統合の3段階に分かれる。(1)理論研究は内容として文献調査、文献レビュー、仮説の構築を含み、(2)実証研究はインタビュー調査の実施、データの分析、(3)理論研究と実証研究の統合は結果の考察、改革への提言、研究成果の公表を含んでいる。 2023年度は新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが2類相当から5類感染症へ移行し、感染対策が平常に近づいた。2022年度は移動をともなう対面のインタビュー調査は実施せず、文献調査等の理論研究を中心に進めてきたが、延期したインタビュー調査は2023年度に実施する予定である。調査に向けてまず文献レビューの成果に基づいたインタビューガイドを作成し、調査後はデータの作成と分析に着手する。2024年度は研究会をとおして分析結果を検討し、年度末に論文を刊行し、研究成果を公表する。論文では研究成果の要約とともに教育改革に向けた提言をおこなう。
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Causes of Carryover |
2022年度は移動をともなう対面のインタビュー調査を控え、文献調査等の理論研究を進めた。また、国際エンジニアリング連合(IEA)が「修了生としての知識・能力と専門職としてのコンピテンシー」を2022年に改編したことによってコンピテンシーに関する本研究の仮説を修正する必要があった。こうしたことから2022年度は理論研究に集中した。2023年度初頭に新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが2類相当から5類感染症へ移行したことにより、求められる感染対策は平常時のものに近づいた。延期したインタビュー調査を2023年度に実施する環境が整いつつある。
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