2023 Fiscal Year Research-status Report
Development of teaching materials on DNA analysis techniques to investigate species in aquatic ecosystem
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22K02953
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
尾山 廣 摂南大学, 理工学部, 教授 (50221700)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 持続可能な開発のための教育(ESD) / 環境教育 / 種特異的 / 環境保全 / フィールド調査 / リアルタイムPCR / 分子進化 / 遺伝子発現 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、身近な淡水魚であるメダカを題材に環境DNAの全体像を理解する基礎テーマの実験教材と、それに続く河川水から生息魚類を検出する発展テーマの実験教材を作成し、高校での授業実践を通じてプログラムの適正化をはかった。「環境DNA調査・実験マニュアル」の実験プロトコルを一部改変し、高校現場で実施できる2つの実験教材を作成した。基礎テーマの実験教材では、メダカの飼育水を試料に、種特異的なプライマーとTaqManプローブを用いたマルチプレックスリアルタイムPCRによりメダカ種を同定する実験プロトコルを作成した。発展テーマの実験教材では、淀川のワンドの河川水を試料に、ブルーギルのプライマーとプローブを用いたリアルタイムPCRにより生息の有無を判定する実験プロトコルを作成した。授業実践では、高校生を対象に、各実験を1日2時間の予定で実施した。基礎実験では、メダカの飼育水に含まれる剥がれ落ちた組織片をPVDFフィルターでろ過し、その細胞に含まれるDNAを抽出し、陽性のシグナルが検出できた。授業時間は、実験操作が40分間、PCRの分析時間が30分間、実習講義と実験操作の説明に30分間、合計2時間程度となり、高校の授業枠内で十分に実施できることが分かった。発展実験プロトコルでは、高校近傍のワンドで生徒たちと一緒に採水した河川水から同様に環境DNAを抽出し、PCR分析を行ったが、シグナルが検出できなかった。当日は気温が低く、降雨という悪条件であり、大学の高感度PCR装置でも分析を行ったが同じ結果であった。授業時間は、採水から理科実験室に戻るまでに予想以上に時間がかかり、全体で2時間を超えてしまった。なお、授業前後で実施した授業内容に関する習熟度テストの結果から、生徒たちは環境DNAに興味を持ったことが分かったが、当初の想定よりも理解度の向上が低いなどの改善点が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
基礎および発展テーマの実験教材は、おおむね完成したが、高校における授業実践は、通常授業の年間予定が過密であること、河川の近傍という立地条件が必要であること、ワンドでの採水が天候に左右されることなどから、年に2~3回となっている。いずれの実験プロトコルもシンプルであり、学校現場で高校教員が授業を実施することは十分に可能であるが、高価な消耗品や試薬、特殊な機器(リアルタイムPCR装置)を使用すること、ハンディタイプのリアルタイムPCR装置を貸し出しだせる大学が限定されていること、発展テーマの実験プロトコルにおいて、ハンディタイプの装置の検出感度が低いことなどから、生命科学系の学部・学科に設置されているリアルタイムPCR装置を借用した高大連携による授業の実施が現実的と考えられる。また、広く普及させるには運用コストの低減が必要であり、予備的ではあるが、安価なろ過システムや低価格のPCR反応試薬の利用が可能という結果が得られており、再現性を十分に精査し、汎用プロトコルの改良を進める予定である。なお、2023年度は河川水の採水が冬季のみとなったため、年間を通じた生態学的な研究への展開を考えると、春季、夏季、秋季における河川水の分析データの収集も必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
基礎テーマの実験教材については、高校での授業実践を通じて、生徒の理解度の向上につながる授業プリントの見直しや習熟度テストの改良、事前学習の導入などを踏まえた授業計画について検討を加える。一方、発展テーマの実験教材については、採水地の選択と採水時期を含めた授業計画の見直し、さらにハンディタイプのリアルタイムPCR装置の検出感度の問題を解決するために、採水量を増やすことやDNA抽出操作の改善を進めるほか、状況に応じて、大学のリアルタイムPCR装置を使う新たな実験プロトコルの作成など、授業計画の追加、修正を検討する。さらに、教育現場における長期間の生態学的調査に対応できるように、採水地と採水時期に関するデータ収集を進めながら、ワンドの河川水中に生息魚類の組織片が多く含まれる環境要因についても検討する。
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Causes of Carryover |
2023年度は、交付額の約90%を執行しており、ほぼ順調に実験計画が遂行できたと考えている。初年度はコロナ禍の影響のため、高校での授業実践が難しい状況となり、繰越金が多く発生し、その分を踏まえた繰越額となっている。2024年度は、年間を通じてワンドでの環境DNA分析を実施する予定であり、2023年度と同等またはそれ以上の予算執行が見込まれる。
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