2022 Fiscal Year Research-status Report
生物進化を身近に感じるEvoDevo教育~棘皮動物の発生を基に~
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22K02962
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
北沢 千里 山口大学, 教育学部, 准教授 (30403637)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 棘皮動物 / 生物進化 / 発生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、「生物が如何に進化し、人類が他の生物と共存しながらいかに主として存続していけるか」という、壮大なスケールの生物進化について、教育現場で子どもたちがより身近に体感できるようなエボデボ教育プログラムを開発することを目的としている。特に、海産動物の棘皮動物の発生の学習を中心に、発生過程における多様性を子どもたち自らが観察し、具体的に理解することのできる教材の開発を目指すものである。 当該年度は、山口県沿岸に生息する棘皮動物の発生過程の基礎データを収集した。成体原基形成の様式の異なる2タイプのウニ類(羊膜陥形成タイプ:バフンウニ、細胞塊形成タイプ:サンショウウニおよびコシダカウニ等)、幼生期に餌をとらずに発生する直接発生型のヒトデ類(ヒメヒトデ、チビイトマキヒトデおよびトゲイトマキヒトデ等)が採集でき、それらを用いて繁殖時期を特定した。更に、各種の変態に至るまでの発生過程を光学顕微鏡観察により網羅的に追跡した。特に、初期幼生期に細胞塊を形成して成体原基を形成するサンショウウニ類の幼生では、新たに主要な幼生腕に黄色を呈した細胞が変態が近づく発生後期に形成されることが明らかとなった。また、それらの黄色細胞が幼生腕を切断した際に、その切断面に集合していることも発見した。 また、予備的に、各種の各発生段階における幼生を切断し、その後の発生や再生が生じるのか否かについても追跡した。加えて、各発生段階における胚や幼生の固定試料を作製した。特に、直接発生型ヒトデ類の一部を用いて、走査型電子顕微鏡観察により外部形態の微細構造の追跡ならびに当該年度に導入したミクロトームを用いて切片作成を行った。更に、人工受精が成功していないクモヒトデ類(ニホンクモヒトデ)の人工受精法の確立を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、山口県沿岸での生態調査により目的としている棘皮動物の大半が採集でき、研究を遂行することができた。その結果、各種の変態に至るまでの発生過程の形態的特徴を網羅できただけでなく、各発生段階における胚や幼生の固定試料も確保することが可能となった。今後、これらを用いて、より詳細な走査型電子顕微鏡観察ならびに切片を作成して内外の形態的特徴を追跡する。更に、サンショウウニ類の発生後期の幼生から特殊な細胞の存在を新たに発見できたことは、一般的な摂餌性の浮遊幼生期をたどるウニ類でも、グループ間で変態時に多様な機構を導入していることを、より身近に感じることのできる発生学の教材としてなりうることが大いに期待された。この内容については、今年度の学会発表にもつながっている。また、人工受精が成功していないニホンクモヒトデの人工受精法の確立を試みたが、当該年度は確立まで至らなかったものの、おおよその配偶子放出手法のポイントを抽出でき、次年度以降、確立に向けて前進できると期待される。以上のことから、当該年度の研究の進捗は、おおむね順調であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、山口県沿岸で活用できる棘皮動物を用いて、各種の変態に至るまでの発生過程を光学顕微鏡観察・走査型電子顕微鏡観察ならびに切片作製により網羅的に追跡する。野外からの生物試料の採集となるため、気候条件により大きく左右されるが、確実に確保できる種を中心に、胚や幼生の調節能ならびに再生能の有無について、各発生段階の胚や幼生に対して様々な顕微手術を行い、網羅的に追跡を行う。更に、それらの能力の違いが、どの胚葉に起因するのか、各領域の切断・移植実験と他の動物で知られている特異因子の阻害実験等を組み合わせて追跡する。また、山口県沿岸で活用できるウニ類・ヒトデ類・クモヒトデ類のうち、人工受精法が明らかでない種についての人工受精の確立と変態まで確実に追跡できる飼育システムの構築を試みる。特に、前年度に人工受精法のおおよその条件が挙げられたニホンクモヒトデについては、その条件の実証を行い、人工受精法の確立を目指す。また、ウミユリ類・ナマコ類についても、同様に試みる。次に、各種の胚や幼生の調節能ならびに再生能の有無について、各発生段階の胚や幼生に対して様々な顕微手術、特に前後および左右極性に着目した切断実験を行い、その後の発生過程について網羅的に追跡を行う。これらの結果を基に、各種の個体発生おける発生能の特性の獲得の仕方ならびに内部構造の形成過程の一覧表を作成する。
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