2023 Fiscal Year Research-status Report
日本人青年のアイデンティティ発達を妨げるものは何か
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22K03056
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
杉村 和美 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 教授 (20249288)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 発達 / アイデンティティ / 青年期 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,文化的価値観の変容という観点から見て,日本人青年のアイデンティティ発達を妨げているものは何かを,ナラティブ(自己語り)・アプローチによって,明らかにすることである。大学生300名を対象に,青年の自己語りを収集し,(1) 社会が彼らにどのようなアイデンティティ形成を期待しているのか,その様々な内容を抽出したうえで,(2) 個々の青年が,社会からの期待の様々な内容を,どのようにネゴシエーションさせながらアイデンティティを形作ろうとしているのか,その多様なあり方を分類することを目的とする。さらに,(3) 分類された自己語りの内容およびネゴシエーションの種類と,アイデンティティ・ステイタス(達成,早期完了,モラトリアム,拡散)および精神的健康との関連も検討する。 本年度は,このうち(1)および(2)について,分析を行った。具体的には,これまでに収集した104名の青年の語りを用いて,彼らの自己語りの中に見られる,(a) 青年が認識する,社会からのアイデンティティ形成への期待としての集団主義的な内容と個人的な内容を抽出する作業,および (b) 青年が,社会からの様々な期待(集団主義的な期待・個人主義的な期待)に対して,どのように対応しようとしているのか(あるいは,対応したのか),その多様なネゴシエーションのあり方を抽出する作業を行った。この作業は,テーマティック・アナリシス法に基づいて,申請者が研究協力者と共に進めてきた。その結果,(a)については,集団主義的な期待と個人主義的な期待の両方について様々な内容があることがわかった。また,(b)については,それら2つの期待の間のバランスの取り方について様々な内容が見られることがわかった。ただし,この作業は現在も継続中であり,現在見出されつつある具体的で多岐にわたる内容を整理・統合してカテゴリー化するには,さらなる作業が必要な状況である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では,すでに得た104名のナラティブ(自己語り)から,青年が,「社会から期待されていると認識している,集団主義的な内容と個人主義的な内容」および「社会からのアイデンティティ形成の期待としての集団主義的・個人主義的な内容の,多様なネゴシエーションのあり方」をコード化するためのマニュアル作成を終え,仮説の検証作業に入ることになっていた。しかし,現在もまだマニュアルを作成中である。その理由は,質的なデータからマニュアルを作成する作業は,大量の逐語録を繰り返し読み込んで,複数の研究者で議論しながらカテゴリーを生成することが必要であるため,思った以上に時間がかかっているからである。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き,青年が「社会から期待されていると認識している,集団主義的な内容と個人主義的な内容」および「社会からのアイデンティティ形成の期待としての集団主義的・個人主義的な内容の,多様なネゴシエーションのあり方」をコード化するためのマニュアル作成を行う。そして,次年度前半に評定マニュア ルの作成を終えて,そのマニュアルをもとにデータのコードを行い,仮説1(青年の自己語りには, 社会からのアイデンティティ形成への期待として集団主義的な内容と個人主義的な内容の両方が現れ,その頻度は一方の内容だけが現れるより多い),仮説2(青年の自己語りには,社会からのアイデンティティ形成の期待としての集団主義的・個人主義的な内容の,多様なネゴシエーションのあり方が見られる),仮説3(文化的価値観のネゴシエーションのあり方とアイデンティティ・ ステイタスおよび精神的健康度は関連する)の検証を行う予定である。
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Causes of Carryover |
「社会が青年にどのようなアイデンティティ形成を期待しているのか」について若者が認識する様々な内容を抽出するため,および「個々の青年が,社会からの期待の様々な内容を,どのようにネゴシ エーションさせながらアイデンティティを形作ろうとしているのか,その多様なあり方」を分類するための,評定マニュアルの作成に思った以上の時間を要しているめ,実際にデータを評定する作業に入るにはまだ少し時間が必要であった。そのため,評定者に支払う人件費等を十分に使用するに至らず,次年度使用額が0より大きくなっ た。次年度は,実際の評定作業に入るとともに,さらにデータを収集していく予定であるので,参加者への謝金,評定者への謝金等の人件費,分析の途中経過を発表するための学会参加費,交通費などを使用する予定である。
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