2022 Fiscal Year Research-status Report
視写による学習効果の検討:個に応じた書き取り学習の提案
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22K03074
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 麻衣子 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任講師 (60534592)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 視写 / 書きの流暢性 / 個別最適な学び / ICT活用 |
Outline of Annual Research Achievements |
黒板に書かれたものをノートに写す等の視写の活動は,学校場面で多く用いられ,児童・生徒はそのスキルの習得と向上が求められている。一方で,GIGAスクール構想の推進による一人一台端末の整備により,教育場面でのノートテイクの在り方が変容する可能性が高い。本研究は,視写活動が学習過程に及ぼす効果を再検討し,視写に代替する学習活動の提案と実証を行う研究を通して,ICTを活用して学習者の適性に応じた学び方を推進するための基礎的知見の提供を大きな目的としている。 今年度はまず,視写活動を支えるスキルの一つである文字を流暢に書くスキルに注目し,児童・生徒の書きの流暢性のスキルを測定した。小学2年生から中学3年生の児童・生徒191名に読み書きの流暢性課題を実施したところ,全体の10.5%(5.9%~17.9%)の児童生徒の書きの流暢性が著しく低く,さらにその半数が読みの流暢性も低いことが示された。書きの流暢性が低い場合には,黒板をノートに書き写すのに他の児童生徒よりも時間がかかり,一斉指導での遅れが生じる可能性が高い。また,読みにも困難がある場合には黒板に文字情報が書いてある場合には視写にさらに時間がかかる。したがって,書きのみに困難があればタブレット端末でのタイピング等による入力,書きだけでなく読みにも困難がある場合には黒板を写真にとって書き込む等,学習者の困難度によって視写にかわる学習活動の方法が異なることが考えられた。 さらに,小中高を卒業したあとの学習活動の現状を把握するために,大学生73名に普段の講義でどのようにノートをとっているかを尋ねた。常に紙のノートを活用するのが32名であり,常にデジタル端末でノートを作成するのが15名,講義によって使い分けるのが26名という結果となり,半数以上がデジタル端末でのノートテイクをしていることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度として,児童・生徒の視写スキルの実態把握と今後目指すべきノートテイクの在り方についての調査を遂行しており,おおむね順調に進展している。 本研究では,視写スキルを支える認知的スキルとして文字を流暢に書くスキル,ワーキングメモリ,そして同時処理能力を仮定しているが,その中でも主要な要素だと考えられる文字を流暢に書くスキルの発達の様相と,そのスキルの獲得に著しい困難を示す学習者についての調査ができた。さらに,書くことの流暢性だけでなく読みの流暢性スキルとの関連を調査し,書きのみ困難である場合と読み書き双方が困難である場合の視写に代替する支援方法をそれぞれ提案することもできた。次年度以降に,提案した支援方法に効果があるのかを学習者の特性に応じて検討する必要がある。 また,今年度は視写行動の中でも学習場面でのノートテイクに焦点をあて,これからのノートテイクの在り方を検討するために大学生のノートテイクの現状を調査した。その結果,半数以上が紙のノートに視写する以外のデジタルでのノートテイクを活用していることが示された。大学生と小中学生ではノートテイクの目的も若干異なる可能性もあるが,それでも何のためにノートテイクするのか,そしてそれをどのように活用するのかを含めて,小中学生の今後のノートテイクの方向性について一つの指針を示すことができた。次年度以降は,ノートテイク以外の漢字の反復練習等の視写行動にも焦点を当てる予定である。 次年度,視写スキルを支える書きの流暢性以外のスキルと視写の効果の関係を検討する心理実験研究を実施する予定である。これらの実験に使用する視写課題用の提示スライドも複数つくり,難易度等を調整する予備実験も実施している。次年度に参加者を募ってすぐに実験の実施が可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究内容は,以下の二点に集約される。 一点目に,視写スキルを支える下位スキルをより詳細に検討することである。今年度は視写スキルを支える下位スキルとして主要なものとなる書きの流暢性スキルを有意味文章と無意味文章の視写課題の成績によって測定し,その発達的様相を検討した。書きの流暢性が低いと視写行動そのものが難しくなることは容易に想像できるが,書きの流暢性が高くても視写が難しい可能性も指摘できる。本研究では視写を支える下位スキルとして他に学習者のワーキングメモリと同時処理能力にも着目しており,これらのスキルの習得度合いが視写行動にどの程度寄与するのかを実験的に検討する。視写スキルを支える要因を明確化することで,視写が難しい場合の代替の学習方法を個別に提案できると考えている。 二点目に,視写行動が学習に及ぼす効果を実験的に検討することである。ノートテイクや漢字の反復視写行動は,内容を記憶するために行う行動であることが暗黙の前提とされているが,視写が情報の保持にどの程度寄与しているのかを実験的に検討する必要があろう。そこで課題スライドを提示してそれを視写する条件,視写しないで黙読する条件,視写せずに音読する条件等を設定して,視写することが記憶の保持に及ぼす効果を検討する。また,上記で検討予定の視写を支える下位スキルの高低によって,視写による学習の効果がどの程度違うのかを検討する。実験に使用する提示スライドは今年度作成している。 これら二点の結果から,児童・生徒の視写にかわるICTを活用した学習行動を提案し実証することを今後の方針としている。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大防止策による活動制限により,学会が国内国外問わず,バーチャルで開催されるようになり,予算として計上していた旅費をほぼ執行できなかった。また,データの集計と分析をアルバイトに依頼する予定であったが,これらをすべて研究代表者自身で行ったため,人件費と謝金を執行しなかった。以上により,一部の予算が次年度に繰り越されることとなった。 次年度は対面参加での学会が増えるため,当初予定していたものよりも多くの学会に参加して本年度の成果発表と情報収集を行う。さらに,実験の実施と分析にアルバイトを多く割いて人件費を拠出する予定である。連携先の小中学校として,申請者の所属機関がある東京都内だけではなく,国内で研究実施が可能な小中学校を探して実施できるようにスケジュールを立てる予定である。所属研究室では群馬県や京都府にも連携できる学校があるため,これら遠方での研究実施のための旅費にも予算を使用する。
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Research Products
(1 results)