2022 Fiscal Year Research-status Report
ネガティブ経験が中核をなすアイデンティティ構造の解明と意味づけの種類別効果
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22K03079
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
渡邊 ひとみ 高知大学, 教育研究部人文社会科学系人文社会科学部門, 准教授 (90614850)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | アイデンティティ / 肯定的意味づけ / ネガティブ経験 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、(1)「ネガティブ経験がアイデンティティの中核をなす」状態とは、具体的にどのようなアイデンティティ構造として説明され得るのかを解明し、(2)アイデンティティ構造の違いを考慮しながら、ネガティブ経験に対する肯定的意味づけの効果を検討すること、である。研究期間の1年目は、ネガティブ経験がアイデンティティの中核をなす場合、アイデンティティ構造に共通の特徴がみられるのか、あるいは、いくつかの構造パターンに分類されるのかを検討した。
11-12月に全国の成人を対象とするオンライン調査を実施した。「今現在の自分自身・自分らしさ」にもっとも強く影響を及ぼしている出来事を尋ね、ネガティブな出来事を記述した者を対象に詳細な分析を行った。その結果、成人の約43%が日常的に1文脈(※文脈とは、「家庭」や「職場」といった日常文脈のこと)にしか参加しておらず、シンプルなアイデンティティ構造を有していること、またその文脈は過去の出来事に関連深い文脈であることが示された。
一方、2文脈以上に参加している場合、出来事がアイデンティティの中核をなす程度が高いほど、その出来事とは関連のない文脈でアイデンティティを形成している(男性)/文脈特有のアイデンティティ間の関連性が高い(女性)ことが明らかとなった。ネガティブな出来事がアイデンティティの中核をなす状態は精神的不健康をもたらすため、何かしらのコーピングが必要となる。1つの可能性として、男性は出来事とは関連のない文脈に参加し、新たなアイデンティティを複数形成することで、ネガティブ経験がもつ影響力を相対的に小さくしようとするのではないだろうか。女性に関しては、積極的に新たな文脈特有のアイデンティティを形成し、統合されすぎて強く影響を及ぼし合っているアイデンティティ間の関連性を低下させることが有効なコーピングとなるかもしれない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は郵送調査を予定していたものの、質問項目の性質上、匿名性の高いオンライン調査を実施することとなった。調査実施方法は変更となったものの、予定通りに大規模な調査を実施することができたため、現時点ではおおむね順調に進展している。 しかし、一部のデータについては分析が終わっておらず、総合的な考察は次年度に持ち越すこととなった。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度の研究データ分析を完全に終えたのち、国内外の学術学会およびジャーナルにおいて研究成果の発信を行う。 同時に、アイデンティティの構造的特徴とネガティブ経験に対する肯定的意味づけ(benefit-finding)との関連性を検討する。ネガティブ経験を客観的に捉え直し、そこに肯定的意味を見出すことができれば、アイデンティティ発達や精神的健康の回復・向上・維持につなげることができるといわれている。そこで、どのようなアイデンティティ構造をもつ場合に、どのような種類の肯定的意味づけをすることが、もっとも効果的に精神的健康を高めることにつながるのかを検討する。また、精神的健康への影響だけでなく、その効果がある程度の期間にわたり維持されるのかどうかも明らかにする。 当初の計画通り、研究期間の2年目(2023年度)以降は、全国の成人を対象とし、3時点(調査1回目、半年後、1年後)でデータを収集するかたちの縦断研究を実施する。出来事経験時のストレスの程度や出来事からの経過年数といった、研究変数に影響を与え得る変数も把握統制した上で、総合的に考察する。
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Causes of Carryover |
郵送による大規模な質問紙調査を予定していたものの、質問項目の性質上、オンライン調査へと変更する必要性が生じたことが理由で、次年度使用額が発生した。 次年度以降の研究においてもオンライン調査による実施へと切り替える予定であるが、1年にわたる縦断研究を実施するため、途中の離脱率も考慮しながら、十分な数の有効データを収集できるよう計画的に研究を進める。
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