2023 Fiscal Year Research-status Report
ベクトル空間モデルを用いて心的辞書の意味的構造を理解する
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22K03192
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
小河 妙子 弘前大学, 保健学研究科, 教授 (30434517)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤田 知加子 南山大学, 人文学部, 准教授 (70300184)
増田 尚史 広島修道大学, 健康科学部, 教授 (90335018)
T・A Joyce 多摩大学, グローバルスタディーズ学部, 教授 (20418677)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 心的辞書 / 意味処理 / シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,私たちが日常生活で接する小説,新聞,雑誌などの書き言葉に含まれる単語を通じて,人々がどのように意味を理解し,記憶するかを明らかにすることである。この目的を達成するため,認知心理学的手法として潜在意味解析を採用している。潜在意味解析は,テキスト内での単語の共起パターンを分析し,その情報を基に,単語や文章の意味的関連性を数値や図で可視化して表現できる技術である。この技術を利用することで,様々な文書における単語の使用状況から,単語間や文章間の意味的な繋がりを探ることができる。 具体的には,分析によって得られたデータを基に,単語の意味を表す空間,すなわち「意味空間」を構築し,この空間内での単語や文章の位置関係を通じて,意味の理解や記憶の仕組みを探求する。この意味空間によって形成される単語の関係性を分析することで,言語理解のプロセスをモデル化し,人々の語彙知識の構造をシミュレートする試みを行っている。このシミュレーションと実際の人間の行動データとの比較分析を通じて,人の言語理解メカニズムに関する新しい知見を得ることを目指している。 令和5年度における具体的な活動内容としては,まず,眼球運動を計測する実験装置の設置と,単語の視覚呈示条件やデータ分析方法の検討を行った。また,漢字の学習や理解に焦点を当てた先行研究のレビューを進め,漢字の意味の類似性に関する調査結果をもとに3次元空間で可視化する作業を実施した。この過程で得られた知見を基に,学会発表を行い,研究成果を共有した。 これらの活動を通じて,言語の意味理解に関する深い洞察を得るとともに,今後の研究の方向性を探った。特に漢字を用いた研究は,言語理解の普遍的なメカニズムを探る上で有益な情報を提供してくれることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では,眼球運動測定装置の細かな調整と実験プログラムの開発に,予想以上に多くの時間を要した。使用している眼球運動測定装置は開発されてからまだ年数が浅く,認知心理学分野における先行研究が限られているため,参考にできる情報が不足している状態も,研究の進捗の遅れに影響を及ぼした。また,視覚刺激をミリ秒単位で正確に呈示し,その大きさを適切に調整する作業はかなり困難であったため,計画していた実験条件を実現するまでには多くの時間が必要であった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度以降,我々の研究は二つの重要な活動に焦点を当てる予定である。 第一に,潜在意味解析(LSA)によって形成された意味空間の詳細な分析と実験を通じて得られる行動データの収集を行う。この過程では,LSAによって抽出された単語の意味空間を分析し,それらの意味的な類似性や明瞭性など,多様な側面から評価を行い,これらの評価結果をもとに,人間の言語理解プロセスを模擬するシミュレーションと比較可能な単語のセットを構築する。 第二に,作成された単語のセットを使用して,意味的に類似する刺激に基づくプライミング課題や,語彙判断課題,意味性判断課題など,複数の実験を実施する。具体的には,漢字熟語を用いた視覚世界パラダイムを利用し,参加者に4つの異なる画像を呈示し,あらかじめ提供された単語(例えば「病院」)の意味に合致する画像を選択させることで,その選択プロセス中の眼球運動を記録する。このパラダイムによって,言語理解の過程をより深く探求し,人々が言葉の意味をどのように処理しているのかを明らかにすることを目指す。 第三に,これらの実験から得られたデータを基に,我々のシミュレーションモデルをさらに改良し,人間の言葉に対する知識構造を模倣するモデルの開発を進める。 そして令和8年度には,これまでの研究で得られた成果を総括し,学会での発表や論文の公開などを通じて成果の公開を行う。この取り組みにより,言語理解のメカニズムに関する研究の発展に寄与することを目指している。
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Causes of Carryover |
実験実施の進捗が遅れており,それに伴う実験参加者への謝金や,実験補助のアルバイト謝金を使用しなかったため。 令和6年度には,主に実験参加者及び実験補助者への謝金,研究成果を発表する国内学会出張旅費,実験補助に関する消耗品に経費を使用する予定である。
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