2023 Fiscal Year Research-status Report
K3曲面の周期と鏡映群の不変式による保型形式の研究
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22K03226
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
永野 中行 金沢大学, 数物科学系, 准教授 (30707873)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 周期写像 / K3曲面 / 保型形式 / 複素鏡映群 / テータ関数 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度出版された志賀弘典氏との共著論文(Transformation Groups,2024)において,本研究者は特別な形をした偶格子で定義される格子偏極K3曲面の周期写像の逆対応を,複素4次元のI型有界対称領域上で定義されたアイゼンシュタイン整数環と関連するテータ関数と,階数5の例外型複素鏡映群の不変式によって明示的に表示している.これは楕円曲線の周期写像の逆対応が,複素上半平面上のJacobi のテータ関数と,階数2の例外型複素鏡映群の不変式で表示されること,更には主偏極Abel 曲面のKummer 曲面の塩田・猪瀬パートナー(Clingher-Doran, 2012年によって研究されたK3曲面)の周期写像の逆対応が,階数2のSiegel 上半平面上で定義されたテータ関数と,階数4の例外型複素鏡映群の不変式で表示されうることの自然な拡張を与えている. この研究を受け,本研究者はテータ関数による表示の応用を目指した.上で述べた複素4次元のI型有界対称領域上で定義されたテータ関数を含むような,一般の平方数次元のI型有界対称領域の上で定義された虚二次体の整数環と関連付けられるテータ関数のクラスを考え,それらが満足する非自明な関係式を多く包括的に与える方法を与えた.これはE.Freitag 氏や松本圭司の研究で用いられたテータ関数の関係式を特別な場合として含む.結果はOn Riemann type relations for theta functions on bounded symmetric domains of type I (Linear Algebra and Its Applications) にまとめられ,本年度に出版された. 上記の結果は特殊関数・代数幾何学・整数論が交叉する領域にある.関連する分野の研究集会や研究セミナーに複数回招待され講演を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度得られたテータ関数についての研究成果は,以下の理由により今後の研究で応用される可能性が高い. テータ関数は非常に良い形のFourier 級数によって定義される関数である.例えばアーベル多様体を射影空間に埋め込む際にはたくさんのテータ関数を構成する手法が一派的である.また志村多様体の一般論にテータ関数は現れ,更には具体的なモジュラー形式の特殊値で代数体の類体を構成する場合などに用いられる.このように,非常に広い整数論的な応用を持つことが知られている. テータ関数を用いた整数論の応用の際には,テータ関数の満足する非自明な関係式をたくさん作ることが現実的に必要である.上半平面上で定義されたJacobi のテータ関数の場合には,ある種の対称行列が定める組み合わせ論的な構造から,Riemann の関係式という有名な一連の関係式が得られる.Siegel 上半平面の上で定義されたテータ関数においても,似たアイデアを用いて多くの関係式を得ることが必要である. 今年度応募者が得た,一般の平方数次元のI型有界対称領域の上定義され一般の虚二次体に付随するテータ関数についての非自明な関係式を得る方法は,上で述べた既知の場合の自然な拡張と見なすことができる.来年度以降の研究で応用されることが期待される.本年度の研究は,本研究の一連の計画で重要な役割を果たす.以上の理由からおおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
Clingher-Malmendier-Shaska(Communications in Mathematical Physics, 2019)は,主偏極Abel 曲面のKummer曲面族の塩田・猪瀬パートナーの拡張族となる格子偏極K3曲面族を与えている.彼らのK3曲面族は興味深い応用を多く持つ.一方,本研究者の今年度出版された論文(Transformation Groups, 2024)で扱った格子偏極K3曲面族も,Clingher-Malmendier-Shaskaとは別の,主偏極Abel 曲面のKummer曲面族の塩田・猪瀬パートナーの拡張族となる.つまり偏極を与えている格子の構造が異なる.この二種類の格子偏極K3曲面族を比較したとき, 両者にはそれぞれの特徴があるが, 周期写像のモノドロミー群については、本研究者により扱われたK3曲面族の方が簡明な構造を持つことがわかっている.このモノドロミー群の特徴を生かすことで,新しく見通しの良い成果を得ることを目指したい. また,本研究者により扱われたK3曲面族は, テータ関数を介して複素鏡映群の不変式が現れることが特徴である.本研究者の研究手法は代数多様体の周期写像と保型形式の視点に元図いている.一方で,鏡映群の不変式については,平坦構造の研究者による幾何学的な研究が多くなされてきた.近年注目されている加藤満生氏・眞野智之氏・関口次郎氏による大久保型超幾何方程式と複素鏡映群の研究, あるいは佐竹郁夫氏により90年代になされたテータ関数と平坦構造の研究などとの関連を追及することで,保型形式と平坦構造を繋ぐような今までにない研究の方向性が開拓できるのではないかと期待している.
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Causes of Carryover |
本年度参加予定だった研究集会に次年度参加すること,また本年度招待予定であった研究者を次年度招待することから次年度使用額が発生した.全体の研究計画への影響は無い.
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