2022 Fiscal Year Research-status Report
Zeta functions associated with discrete systems and its applications
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22K03262
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Research Institution | Muroran Institute of Technology |
Principal Investigator |
森田 英章 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 教授 (90435412)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ゼータ函数 / 離散構造 / 組合せ論的ゼータ函数 / グラフゼータ函数 / 行列式表示 / 正則被覆 / アルチン L-函数 / 跡公式 |
Outline of Annual Research Achievements |
有限グラフや(擬)有限力学系、あるいは有限群の作用などの離散的な対象に対して定義されるゼータ函数を研究対象としている。そこでは、定義のあり方に差異はあれども、「指数表示」、「オイラー(積)表示」、「橋本表示」とよばれる「三種の表示」が、等しく観察される。本研究課題では、この「三種の表示」の成立根拠を模索し、それを「組合せ論的ゼータ函数」という枠組みで理解することに成功している。 一方、組合せ論的ゼータ函数の原型である「伊原ゼータ函数」には、三種の表示のほかに、「伊原表示」とよばれる四種類目の表示をもつことが、その原論文において知られており、この伊原表示の構成が、その後のグラフゼータ函数の研究において、主題の一つであり続けてきた。伊原以降の展開においても、様々なグラフゼータ函数が定義され、その伊原表示が求められてきた。 本研究課題の目的は、これら各論に終始してきたグラフゼータ函数に対する伊原表示の研究を、より一般の枠組みである組合せ論的ゼータ函数に対して、その一般論を与えることにある。さらに底空間としての有限グラフを、一般の有限有向グラフに拡張し、その上で正則被覆や、さらにゼータ函数を越えて アルチン L-函数の分解則の記述を経由して、その後は跡公式による理解を目指す。 現在、「一般荷重ゼータ函数」とよばれる組合せ論的ゼータ函数を考察し、その伊原表示の構成を一般の有限有向グラフに対して行うことに成功した。伊原表示の構成には「逆辺」の定義が重要になる。本研究課題では、底空間の有向グラフには重複辺を許容しており、逆辺をいかに定義するかが大きな問題となる。直近の研究結果では、重複辺を許す有向グラフに対して逆辺の一般的定義を与え、その定義のもとに一般荷重ゼータ函数の伊原表示を与えることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
有限有向グラフに対する一般荷重ゼータ函数の伊原表示とよばれる行列式表示の構成に成功している。伊原表示の構成に向けては、現在考えら得ているもっとも一般的な方法は、同じ行列式表示である橋本表示を変形していく手法である。その際問題となるのは、逆辺の定義の設定である。本研究課題で考えている底空間としての有向グラフは、多重辺・多重ループを許しており、従って一つの有向辺に対して、その逆辺が自然に定まらない。これまでのグラフゼータ函数の研究においては、有限グラフの対称有向グラフを底空間として採用していたので、各有向辺に対してその逆辺が自然に一意的に定まり、本研究課題のような逆辺の定義に対する問題は発生し得なかった。 代表者らによるこれまでの研究では、多重辺・多重ループを許す有限有向グラフに対して、各有向辺に対してその逆辺の取り方を具体的に設定した上で、伊原表示の構成問題を解決してきている。この場合、次の2つの場合をその「極端な場合」として設定することが可能である。一つは、各有向辺に対して、「逆向き」の辺はすべてその有向辺の逆辺と定義する場合である。もう一つは、各有向辺に対して、逆向きの辺を(存在すれば)一意的に指定し、それをその逆辺として定義する場合である。この両者の場合に対して、代表者およびその共同研究者らは、橋本表示の変形をすることにより伊原表示にまで導くことに成功しており、これらそれぞれの結果は2編の共著論文にまとめられ、現在投稿中である。 そこで問題となるのが、有限有向グラフにおいて、一般に「逆辺とは何か」という問題である。直近の研究ではこの問題に取り組み、伊原表示の構成という観点から、逆辺の満足いく一般的な定義に到達した。先の2つの「極端」な例は、すべてこの定式化に懐胎される。この定義を用いて一般荷重ゼータ函数の伊原表示を、最も一般的な形で与えることに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
一般荷重ゼータ函数は、原型の伊原ゼータ函数以来、様々な形に発展してきた先行研究に現れる各種のグラフゼータ函数を、統一的に記述する枠組みを与えている。それは自然に組合せ論的ゼータとなり、従って三種の表示が自ずから整い、従って橋本表示が常に存在する。伊原表示の現在における最も一般的な導出手法は、橋本表示を変形することにあるので、本研究課題において、これまでの伊原表示に関する既存の議論は、一般的に解決されたことになる。 Terras や佐藤の議論では、グラフゼータ函数に対する伊原表示の構成問題が解決した後は、低空間を「正則被覆」に持ち上げる議論が行われ、さらにゼータ函数自体を「アルチン L-函数」に一般化して考察を進めることが多い。ここでも、有限有向グラフに対する一般荷重ゼータ函数に対して、この2方向に議論を進めることを考える。ここで問題になるのは、多重辺・多重ループを許す有向グラフに対して、その正則被覆の構成である。これまでの議論では、正則被覆を考える場合には、有限単純グラフの対称有向グラフに対する場合に議論が限られている。従って、本研究課題に構想に従い、正則被覆の議論を行う場合には、まず一般的な有向グラフに対して、その正則被覆の考察から始める必要がある。具体的には、通常の有限グラフに対するそれのように、この一般的な場合でも正則被覆が「通常荷電分配」による構成の可能性を考察する必要がある。この点の考察をまず進めていく予定である。 一方、橋本表示をもつゼータのクラスで最も一般的なものが組合せ論的ゼータ函数である。従って、その伊原表示の構成、正則被覆に対する一般化、さらにアルチン L-函数への展開などに、今後の考察は自然に進むことが予想される。また、これらの議論を、Terras による跡公式を用いた議論に発展させることも今後の展開に含まれる。
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Causes of Carryover |
想定していた金額と、実際の金額の細かい誤差が積算された。次年度の予算と合わせて使用する予定。
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