2023 Fiscal Year Research-status Report
Studies on unstable cohomologies of the automorphism groups of free groups and its associated Lie algebras
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22K03299
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
佐藤 隆夫 東京理科大学, 理学部第二部数学科, 教授 (70533256)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 自由群の自己同型群 / ジョンソン準同型 / 組みひも群 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は榎本直也氏との共同研究により,自由群の基底-共役自己同型群(McCool群ともいう)と組みひも群のジョンソン準同型の余核の構造に関していくつかの進展があった. McCool群については,自由群の自己同型群のトレース写像,および対称群の表現論を用いて,次数が9までのジョンソン準同型の余核の,対称群が作用する加群としての構造を記述できた.これは,トレース写像の像については,次数kの各分割に対応するある部分加群ごとに計算できることが分かったことによるところが大きく,非安定域のみならず安定期についても計算機を用いて計算できるという点で非常に有益である.さらに,この計算により次数が7以上の場合については一般にトレース写像の核とジョンソン像が一致しないことも分かった.これまでの結果は論文にまとめて現在投稿中である. 一方,組みひも群のジョンソン余核の構造に関する研究も行った.純組みひも群はMcCool群の部分群であり,McCool群に対して行ってきた研究手法をそのまま適用できるメリットがある.これまでに,4次までのジョンソン余核に関してはトレース写像を用いて対称群が作用する加群としての構造を完全に記述できた.さらに,5次の場合にトレース写像の核とジョンソン像が一致しないことも分かった.また,組みひも群のすべてのジョンソン像を含む,自由リー代数の微分代数のある部分リー代数について,そのアーベル化が無限生成であるという結果も森田トレースを用いた議論により得られている. これらの研究は現在も精力的に研究継続中であり,随時進捗している状況である.今後は複数の専門家とも研究交流を図り,特に関連する最新の研究状況などについて積極的な情報交換を進めていきたいと考えている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
McCool群や組紐群のジョンソン像やトレース写像の核の研究に関しては,対称群の表現論と計算機を用いた手法により非安定域のみならず安定域の場合についても計算可能なことが分かり,その結果,榎本氏による計算と合わせて組みひも群のジョン像に関する新たな結果がいくつも得られた.特に,組みひも群は曲面の写像類群と同様に伝統的に非常に多くの研究者によって幾何学的にも代数的にも研究されてきた対象であり,McCool群に関する結果と比べると,研究者たちに与えるインパクトは少なからず大きいものと考えている.さらに,以下に述べるように,関連する最近の結果に関して新たに共同研究が進む見込みもある.これらの観点から,概ね順調に進展していると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
自由群の自己同型群や,McCool群に関するこれまでのジョンソン準同型の研究を踏襲する意味においては,ブレイド群のねじれ係数コホモロジー群との関係について研究を進める余地が大いにあると考えている.自由群の自己同型群に関してはLindell氏や片田舞氏によってねじれ係数安定コホモロジー群に関する最新の結果があり,これらとの比較研究や,本研究課題の特色でもある非安定域で起こる現象を解明するという意味でも精力的に進めたいと考えている.特に,この点に関しては榎本氏に加えて,組みひも群研究の第一人者である秋田利之氏も交えて共同研究を行う予定である. 一方,組みひも群のジョンソン像とトレース写像との関係については,グラフや柏原-Vergneリー代数を利用した幾何学的な観点からFelderが研究を行っており,特にトレース写像の核とジョンソン像のずれを記述するフィルトレイションを与えている.そこで,我々がこれまでに得た結果との関係について精力的に研究を進め,McCool群や組みひも群のジョンソン像とトレース写像の核との差が,Feldlerによるフィルトレイションのどの部分にどのように表れるのかについて具体的に明らかにしていきたいと考えている.これについては久野雄介氏を交えて共同研究を進めたいと考えている. 上記の研究方針に加えて,時間が余るようであれば,自由群の自己同型群のAndreadakis予想に関連した研究も進めたい.現在,自由群の自己同型群のAndreadakis予想は非安定域ではBartholdiによって否定的に解決されているが,安定域では未解決である.具体的には,森田-逆井-鈴木らによる写像類群に付随するリー代数のコホモロジーを用いた研究を自由群の自己同型群に対して考察したいと考えている.
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Causes of Carryover |
前年度に開催した研究集会「第49回変換群論シンポジウム」において,本研究課題と関連のある研究を行っている研究者を招聘するために予算の前倒し請求を行ったが,その後当方から支出する必要がなくなり,結果として次年度繰り越しとなったため.
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