2022 Fiscal Year Research-status Report
マルコフ半群の超縮小性と関連する関数不等式の確率解析
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22K03330
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
針谷 祐 東北大学, 理学研究科, 教授 (20404030)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ブラウン運動 / 確率解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 幾何Brown運動の時間積分により定まる, いわゆる指数Brown汎関数の確率分布の性質を調べる上で有用な道具の一つにBougerolの等式(1983年)がある. この等式は, 独立なBrown運動の時間パラメータに指数Brown汎関数を代入して得られる確率変数は, Brown運動の双曲線正弦関数への代入に同分布であると主張する. J. Bertoin, D. Dufresne, M. Yorは2013年の彼らの論文において, Bougerolの等式の2次元結合分布の意味での拡張を得た. その拡張では, 二つの独立なBrown運動の原点での局所時間が第2成分に現れる. 令和4年度の研究では, 修士卒の学生と協働で上記拡張が成り立つ簡明な構造を見出し, その応用としてBertoin-Dufresne-Yorの結果を, 原点での局所時間とは限らない一般の場合に拡張した(「10. 研究発表」欄の論文).
2. プレプリントサーバarXiv上で公開した論文(arXiv:2211.12755)では, 松本裕行氏とM. Yor氏による2000年の結果を援用して, 指数汎関数を非因果的要素にもつ非適合型経路変換の下でのBrown運動の像測度に対して, Girsanov型の絶対連続性公式を導いた. この結果は, 既存の複数の公式を統一的に記述するものである. 一つの応用として, 指数汎関数から定まる様々な重みでBrown運動を摂動して得られる新たな確率過程の像測度が, 上記に類似の経路変換の下で不変となることを導いた.
3. arXiv上で公開した論文(arXiv:2203.08706)では, 最大値過程により記述されるある経路変換の下でBrown運動の法則が不変となることを述べている. この結果は, スケーリング則や時間逆転のような既知の不変性とはまったく異なるものである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
やや遅れているとの評価にとどめたのは, 補助事業期間前から取り組んでいた指数Brown汎関数に関する研究が, 当初の予想を超えて進展をみせたために, その研究成果の取りまとめに時間を要したことによる. とくに, 「5. 研究実績の概要」欄に記載の三つ目の研究成果に現れる経路変換はいわゆるLaplaceの方法を通じて指数汎関数と結びついており, 対合かつ時間逆転と可換であるほか, Pitman変換と呼ばれる経路変換を保つことが分かり興味深い. Pitman変換は近年, 古典可積分系との繋がりが指摘され, 確率論研究者の新たな関心を惹いている. 上述の研究成果は, Pitman変換に対する新しい知見を与えるものと期待できる.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の対象であるMarkov半群の典型例に, いわゆるOrnstein-Uhlenbeck半群があり, その超縮小性はGauss空間上の対数型Sobolev不等式と同値である. Ornstein-Uhlenbeck半群は, Brown運動の独立増分性を通じた条件付期待値による表現をもつ. このように, 研究課題と令和4年度の研究成果との間にはBrown運動との研究対象が通底しており, Brown運動に対する新たな事実が明らかになることによって, ある種のMarkov半群やそれに付随する関数不等式の研究へのフィードバックも期待できるため, 同時並行的に研究を進めることが重要である.
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Causes of Carryover |
コロナ禍で控えていた海外出張も含めて次年度には, 国内外の出張予定がコロナ禍前の頻度で入ることも想定されるため, 一部未使用額を残すこととした.
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