2022 Fiscal Year Research-status Report
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22K03395
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
山浦 義彦 日本大学, 文理学部, 教授 (90255597)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 分数階ソボレフ関数 / 二重非線形偏微分方程式 |
Outline of Annual Research Achievements |
時間変数を含む放物型、あるいは、双曲型の偏微分方程式を関数空間上の曲線ととらえ、時間変化に伴い、関数空間上のエネルギー汎関数の値が最適に減少する曲線を見つける問題として定式化される。エネルギー汎関数は変分学で扱われる概念であり、そこには本来時間変数が含まれない。従って、これを時間発展問題に適用するためには、時間微分の構造を考慮する必要がある。その方法論としてイタリア学派によって構築された2つの方法が知られている。一方は最大勾配曲線(Curves of maximal slope)法[CMS法]であり、他方は離散モース流法(Discrete Morse flow)法[DMF法]である。前者のCMS法は、十分小さい範囲で連続的に変化する半径の閉球内でその都度エネルギー汎関数の最小化関数を求め、それらをつなぐことにより近似曲線を構成し、半径の上限を0に限りなく近づけることよって目的の解曲線を構成する方法である。この方法では、汎関数の勾配としてスロープという概念が導入され、これがノルム最小の勾配ベクトルと一致するという正則性条件が解曲線構成のための十分条件になる。後者のDMF法は、偏微分方程式の時間変数を離散化することにより再帰的に定義されるエネルギー汎関数族を考え、その都度得られるエネルギー最小化関数の族を用いて近似解を構成し、近似パラメータを0に限りなく近づけることにより近似解を構成する手法である。特に、単に弱解を構成する方法として用いられるだけでなく、近似極限移行の際に使われる近似パラメータに寄らない一様評価を近似解の族に対して得る点にその特徴がある。今年度は、DMF 法によってその弱解が構成された非局所方程式に対する、非負解の体積保存問題とCMS法による非局所方程式の弱解構成に取り組んだ。特に前者は論文として投稿中である。後者は研究初段階に位置づけられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度は以下の2つの話題について主に研究を進めた。 [1] 本申請の研究テーマの一つである分数階ソボレフ関数空間上で考えられるpラプラシアン放物型偏微分方程式である。特に時間微分項にもq乗非線形性を含む二重非線形問題に取り組んだ。特に、qがpの分数階ソボレフ指数よりちょうど1小さい場合の非負解についての体積保存問題を研究した。定常問題の体積保存問題を考えればわかるように、制限条件付きの問題に対してラグランジュ乗数つきの方程式を考えることになる。本研究ではこれに対応して、乗数がつかない原型の方程式の弱解のエネルギー評価を基礎とし、それが有限時間内に恒等的に0になることを本質的に使うことによって時間大域解を構成する。特に有限時間で0に落ちる原型の弱解から、時間無限大までの体積保存弱解を構成するために、Intrinsic スケーリング理論を適用し、補助関数を導入し、時間変数をもつラグランジュ剰余項を適切な常微分方程式の解として決定する。この議論が本論文の最大の特徴である。 [2] 分数階ソボレフ関数空間上での最大勾配曲線(Curves of Maximal Slope)の構成に取り組んだ。具体的に扱った問題は、非凸低階項つきの分数階ラプラシアン放物型方程式(熱方程式)の弱解の構成である。本研究の目的は、非局所方程式の主要項に対応するエネルギー汎関数についての最大勾配の方向に時間経過とともに移動する曲線を構成することにある。非凸低階項があるため、ヒルベルト空間上の凸汎関数に対する最大勾配曲線構成の一般論は使えない。このため、汎関数のスロープとノルム最小の劣勾配ベクトルの大きさの一致という正則性条件に訴えることにより、曲線を構成することを目指すことになる。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の2つの問題について主に研究を推進したい。 [1] 非局所二重非線形pラプラシアン放物型偏微分方程式の弱解の正則性解析。対応する整数階問題については正則性解析の研究が最近進められている。その方法は正値性伝播を基本とする、デ・ジオルジによって構築された手法である。ある時刻での弱解の正値性が、その後十分短い時間であれば遺伝するという結果であり、それから弱解のヘルダー正則性が従う。整数階の二重非線形問題に対する証明テクニックを分数階方程式に応用することにより、正則性解析が可能になると考えられるため、その方向で研究を進めている。その主なテクニックは、時間変数のスケーリング法にあり、指数関数によって時間の定義域を無限時間まで拡張する手法がとられている。これが、分数階ソボレフ関数空間上でも同じように機能することを明確にする必要がある。 [2] 分数階非凸項つきエネルギー汎関数に対する最大勾配曲線の構成。分数階エネルギー汎関数に対する勾配の一般化概念であるスロープについての基礎的研究から始める。非凸性のため、汎関数のカットオフテクニックを使う必要がある。この手法は整数階ソボレフ関数空間上では知られているが、分数階ソボレフ関数空間上の汎関数に対しても同様に機能することの研究が主題になると予想される。この研究は着手したばかりであり、基本となる、局所的な変分問題のエネルギー最小化関数の構成まで議論が進んでいる。変分解析において必要となる、主要なコンパクト性、および、汎関数の下半連続性に加え、本理論における、いわゆる正則性条件を証明するために、スロープの下半連続性、および、条件つき上半連続性の導出が研究の鍵になると考えられる。
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Causes of Carryover |
コロナウィルスにより遠隔作業が推進されたことに伴い、研究打ち合わせ、および、研究集会開催においてもその多くが「対面」と「遠隔」の併用により実現されている。本申請で主要テーマになっている「分数階ソボレフ関数空間上での非局所二重非線形偏微分方程式」の扱いについては、 熊本大学の研究者2名、および、申請者の本務校に非常勤講師として勤務する研究者1名との綿密な研究打ち合わせにより推進している。本務校に勤務する研究者とは本務校において対面にて、お互いの研究成果を基にした議論を行うことができた(研究打ち合わせ謝金支出)。一方、遠隔地である熊本大学の研究者たちとの研究打ち合わせに必須な研究情報交換、論文原稿作成などの作業はすべて、Mail、および、Web 会議システムの利用により遠隔で実現することができた。こうした事情により、本申請に係る支出は、主に他研究者との研究打ち合わせ謝金の支払いと研究情報収集のための機材(iPad購入)にとどまり、予定額をすべて支出することができなかった。 以上の理由から、未使用分は次年度に繰り越し、学会参加費、旅費、ノートパソコン購入等で使用をさせていただく計画である。
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