2022 Fiscal Year Research-status Report
Quantum channel capacity including quantum entanglement and proof of quantum coding theorem
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22K03406
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
渡邉 昇 東京理科大学, 理工学部情報科学科, 教授 (70191781)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 量子情報理論 / 量子エントロピー / 量子エンタングルメント / 量子通信路容量 / 量子符号化定理 |
Outline of Annual Research Achievements |
情報理論は、情報化社会を支える基礎理論の一つであり、様々な情報量(エントロピー)により,チャネルの情報伝送の効率が調べられている。特に,可換系のチャネル符号化定理は、力学的エントロピーから得られる平均相互エントロピー(伝送速度)の限界をキャパシティから示し、誤りの少ないチャネルや符号化を構成する重要な基準を与えている。この定理の量子系への拡張である量子チャネル符号化定理は量子情報理論の中心課題であり,誤りの少ないチャネルや符号化を構成する重要な基準を与えるものとして,非可換性やエンタングルメント等を含む課題の解決が求められている。本研究では、研究代表者が行ってきた量子系のエントロピーの研究、特に、力学的エントロピーや平均相互エントロピーの研究をベースに、量子系特有の性質であるエンタングルメントを示す量子チャネルの特徴付けとキャパシティを調べ,テラヘルツや次世代の量子光通信における非可換性やエンタングルメントを含む通信過程の厳密な研究において必要不可欠となる重要な課題である量子チャネル符号化定理の定式化に向けた種々の問題を解決することを主な目的とする。 入出力系の間でエンタングルメントした2つの量子状態を用いた情報通信過程である量子テレポーテーションと量子密度符号化などは,完全正値性を持つ量子チャネルで記述することができる。このチャネルに対する量子相互エントロピーは,ウールマンが示した量子相対エントロピーの単調性により,入力系の量子状態の持つ量子エントロピーの値を超えることはできないことが厳密に示されている。本研究では,Hilbert空間の設定とC*力学系において,改良された合成状態に対する量子力学的相互エントロピーを計算し,基本不等式が成り立つことを示し,論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,量子エンタングルメントを含むチャネルと量子系の力学的エントロピー理論の研究を基に,量子符号化定理の完全な証明を与えることを最終目標とし,その定式化に必要となる数理的基礎をひとつひとつ積み上げていくことを目的とする。そのために,以下の内容について議論することが必要である。 量子エンタングルメントを示すチャネル理論の定式化:近年,光を信号に用いる光通信過程が量子情報通信理論により議論され,様々な結果が得られている。特に,量子密度符号化や量子テレポーテーションなどの量子系に特有の量子エンタングルメント(2つ以上の量子が互いにもつれた状態)の性質を利用した量子チャネルに対する情報伝送の効率を調べる研究では,シャノン理論との相違点が指摘され,量子エンタングルメントを含む通信過程の定式化の研究の必要性が叫ばれている。量子系の力学的エントロピー理論の展開:量子チャネル符号化の定理の解決には,確率論をベースに定式化されている力学的エントロピーや平均相互エントロピーの量子系への展開が不可欠であり,部分代数上の力学的エントロピーや部分状態空間上の平均エントロピーと平均相互エントロピーが定式化されている。 量子符号化定理の定式化:未解決のままの量子符号化の定理については,(i)情報源符号化の定理が,シューマッハー・ペッツ等によって部分的に議論されている。さらに,(ii) 量子情報通信理論の最も中心的な課題の一つである量子チャネル符号化の定理は,信号を誤りなく送信するための基準を与え,チャネルや符号化を設計する上で重要な役割を果たすものである。 本研究の最終目標は,符号化の定理を証明するための基礎付けをすることである。そのために,エンタングルメントの数理をもとに定められる量子エンタングルメントを含むチャネル理論,量子エントロピー理論を拡張し,それらを相互に関連付けることが必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
情報理論は可換系及び量子系の確率論を基礎に構築され,近年は周辺領域が盛んに研究されている。特に量子情報通信理論の研究は,情報を核に共通の土俵の上で進められ、情報科学のみならず様々な分野へ応用されている。本研究計画では,ヒルベルト空間論,作用素代数論,微分方程式などの既存の数学に情報理論や物理学における諸概念を取り入れて,次の課題に取り組む:(1)量子エンタングルメントを含むチャネル理論の定式化,(2)量子系の力学的エントロピー理論による量子平均相互エントロピーの展開,(3)量子チャネル符号化の定理の解決に向けた数理的研究 今後の研究では,以下の計画を実施する予定である。 通常の情報通信理論では,力学的エントロピー(KS(コロモゴロフ-シナイ) エントロピー)を用いて平均相互エントロピー(情報量)が定められ,それを基にして符号化の定理が一般化されている。このKSエントロピーを量子系に拡張しようとする試みは,コンヌ-ストルマー,エムシュ, コンヌ-ナーンフォッファ-チィリング (CNT), パーク, アリツキー-ファネス(AF), 大矢(Complexity),アカルディ-大矢-渡邉(AOW),コサコウスキー-大矢-渡邉(KOW)等によってなされている。力学的エントロピーは,系の力学的発展に伴って変化した状態が持つ平均的な情報量を表している。本研究代表者達は,AOWエントロピー,KOWエントロピー及び情報力学の複雑さの概念を用いて量子平均エントロピーと量子平均相互エントロピーの定式化を行い,これらの相互関係について研究を行った。本研究では,量子系のチャネル符号化の定理の証明をするための基礎付けを行うために,KOWエントロピーをベースに新たな一般化AOWエントロピーを導入し,量子エンタングルメントの状態変化を取り込んだ量子平均相互エントロピーの定式化を行い,その性質を調べる。
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Causes of Carryover |
量子符号化の定理については,(i)情報源符号化の定理が,シューマッハー・ペッツ等によって部分的に議論されている。(ii) 通信路符号化の定理については,量子情報理論の相互エントロピー型尺度の導入に対しても,これらの尺度が基本不等式を満たさないことや超加法性などの様々な問題が指摘されている。本研究代表者達の研究グループでは,これらの問題点の解消した基礎研究をベースとしており,本研究課題の解決に最も近接した位置にあるといえる。本研究計画を通して得られた研究成果は,論文にして公表し,海外を含めた国際シンポジウム等で順次発表していく予定であるが,コロナ禍の中,海外渡航の回数が当初の予定より減ったため次年度使用額が生じました。
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