2022 Fiscal Year Research-status Report
A refinement of the principle of typicality based on the analysis of Wigner's friend in quantum mechanics
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22K03409
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
只木 孝太郎 中部大学, 工学部, 教授 (70407881)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 典型性原理 / 観測問題 / ウィグナーの友人 / ボルン則 / 多世界解釈 / 確率概念 / アルゴリズム的ランダムネス / Martin-Loefランダム性 |
Outline of Annual Research Achievements |
量子力学では確率概念が本質的な役割を果たす。それはボルン則として量子力学に導入される。しかしながら、量子力学を記述する今日の数学において確率論とは測度論のことであり、ボルン則が基づく“確率概念”に関して操作的な特徴付けは見当らない。その意味で量子力学は物理理論としては不完全であると考えられる。これまでの研究で私は、アルゴリズム的ランダムネスの概念装置に基いて、“典型性原理”と呼ぶボルン則を操作主義的に明確化した代替規則を導入した。そして、これを量子情報理論の各技術に適用しその再構成と精密化を行うことで、典型性原理の有効性を実証した。 ウィグナーの友人は、波動関数の波束の収縮はいつ起こるのかという、量子力学の観測問題の核心をなす思考実験である。本研究では、典型性原理をウィグナーの友人に適用し、その解析結果の整合性を規範として、典型性原理の適用ルールの厳格化を行い、その結果として、観測問題の解決を目指す。 今日、ウィグナーの友人の拡張が活発に議論されている。2022年度は、「交付申請書」に記載した「研究実施計画」の通りに研究を進め、これら拡張版の議論に対し、典型性原理で再構成・精密化を試みた。こうした解析を進め、現行の典型性原理の適用で曖昧となっているポイントを洗い出し、現在、リスト化しているところである。 さて、同一の量子系に対し、同一の測定を繰り返し行うことにより生成されて行く測定結果の無限列を考えよう。典型性原理によればこの無限列はアルゴリズム的ランダム列である。アルゴリズム的ランダム列に対して大数の法則は自動的に成り立ち、これはボルン則の精密な表現である。2022年度は想定外の成果として、この大数の法則を実効化できる可能性を数学的に明らかにした。一般に、量子力学の予言は統計的なものであるが、本成果は、量子力学の予言を統計的ではなく、確定的なものにできる可能性を示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ウィグナーの友人は、波動関数の波束の収縮はいつ起こるのかという、量子力学の観測問題の核心をなす思考実験である。本研究の目的は、典型性原理をウィグナーの友人に適用し、その解析結果の整合性を規範として、典型性原理の適用ルールの厳密化を行い、その結果として、観測問題の解決を目指すものである。 さて、今日、ウィグナーの友人の拡張が活発に議論され、論争化している。本研究課題では、開始初年度である2022年度の研究において、「交付申請書」に記載した「研究実施計画」の通りに研究を進め、これら先行研究によるウィグナーの友人の拡張版の議論に対し、典型性原理で再構成・精密化を試みた。そして、そのような解析結果に基づいて、現行の典型性原理の適用で曖昧となっているポイントを洗い出し、リスト化することに取り組んだ。 ところで、典型性原理のおかげで、量子力学における測定結果の無限列において大数の法則が成り立つことが、数学的に厳密に証明できる。2022年度は、測定結果の無限列に対して成り立つこの大数の法則が、実効化できる可能性を数学的に明らかにした。これは、当初計画にはない想定外の成果である。本成果は、量子力学の予言を統計的ではなく、確定的なものにできる可能性を示唆するものであり、今後の発展が期待される。 このようにして、本研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、典型性原理をウィグナーの友人に適用し、その解析結果の整合性を規範として、典型性原理の適用ルールの厳密化を行う。 さて、量子力学の公理により、閉じた量子系はユニタリ的に時間発展する。フォン・ノイマンは、この公理に基いて、量子測定をユニタリ的時間発展で表現した(以下、これをノイマンスキームと呼ぶ)。現行の典型性原理は、対象量子系の各測定過程を表現するノイマンスキームを一つの大きなノイマンスキームにまとめ、それに対して適用するものである。このとき、“自然な”適用ルールを設定することにより、「対象量子系+“友人”」のノイマンスキームと「友人を含む実験室+“ウィグナー”」のノイマンスキームとを“自然に”分離することができ、これにより、波束の収縮がどちらで起こるかを決定できると考えられる。2022年度の研究で行ったウィグナーの友人の拡張版に関する解析結果に基づいて、このような方針で典型性原理の適用ルールの厳格化を策定し、その厳格化された典型性原理の有効性と妥当性を確認する。 本研究は、典型性原理の適用の必然性と整合性を追求するものである。そして、その作業を通じて、典型性原理の完全化を目指すものである。我々の立場では典型性原理が量子力学そのものであり、結果的に、本研究は観測問題の解決をも目指すものとなる。 本研究は純粋に理論的な考察のみから成る研究である。従って、本研究を成功させるためには、研究推進者である私が、如何に効率良く関連情報を収集し、本研究の着想を如何に拡充するかが重要な鍵となる。そのため、研究期間中は関連する学術会議に参加し、まず自身で発表を行い、それに関して他の研究者との討議を行う。そして同時に、本研究の成就に繋がり得る情報収集を行う。また、私が勤務する中部大学の日常の研究活動においては、必要となる様々な文献に目を通し、本研究の着想を育み、本研究の達成を目指す。
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Causes of Carryover |
(理由)学術会議に参加し、発表を行うことは、本研究課題の重要な研究推進手段である。しかしながら、2020年から始まるコロナ禍は、2022年度も続き、2022年度中に参加し発表を行った学術会議の多くで、オンライン参加により、旅費の支出が不要となった。特に、対面開催の国際会議への参加は、コロナ禍の下で控えた。これが次年度使用額が生じた理由である。 (使用計画)2023年度以降において、これまでの研究成果を拡充した上で、学術会議で発表し、参加者と討議を行って本研究を推進する。同時に、そのようにして本研究成果の周知を行う。また、論文作成や電子文献閲覧、学術会議への参加・発表のために電子機器類を購入する。以上の目的等に次年度使用額は使用する。
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