2022 Fiscal Year Research-status Report
擬フロッピーモードで解き明かす粒子系の摩擦・変形・形状とレオロジーの関係
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22K03459
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
齊藤 国靖 京都産業大学, 理学部, 准教授 (10775753)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 粉体 / ソフトマター / レオロジー / 状態密度 / 分子動力学法 |
Outline of Annual Research Achievements |
粉体やコロイドなど巨視的な大きさの粒子から成る系(粒子系)は理工学の幅広い分野で研究されており、レオロジーなど粒子系のマクロな物性をミクロな視点で理解することが重要である。これまで数値シミュレーションを用いた理論的・数値的研究においては、全粒子の運動を再現する分子動力学法が大きな役割を果たしてきた。近年、分子動力学法によって粒子系が液体状態からアモルファス固体に変化するジャミング転移について詳しく調べられており、マクロな物性とミクロな粒子構造の関係が解明されつつある。例えば、粒子系の粘性率と弾性率はジャミング転移点近傍で臨界スケーリングに従い、両者は粒子の固有振動と直接関係する。つまり、粒子系のレオロジーは固有振動の状態密度によって完全に理解される様になった。また、粒子系の粘弾性を表す動的弾性率も状態密度によって記述され、塑性についてはソフトモード(ゼロの固有振動数)の発現という形で説明されている。 ところで、従来の研究は理想的な状況でのジャミング転移を調べる傾向があり、計算の都合上、摩擦も変形もない完全に球形な粒子モデルを仮定するのが通例である。しかし、実物の粒子は複雑な性質を兼ね備え、それによる状態密度やマクロな物性への影響はまだ十分に研究されていない。事実、理想化された粒子モデルによる弾性率の臨界スケーリングは実験結果と一致しないという問題がある。そこで、本研究の目的は、粒子の性質が状態密度に与える影響を解明し、これによるマクロな物性の変化を統計力学的なアプローチで説明することである。粒子の性質として、①粒子間の摩擦、②粒子自身の変形、③非球形な形状に着目し、マクロな物性として粘性率・弾性率・動的弾性率などレオロジー特性に注目する。特に、①-③の性質を擬フロッピーモードと捉え、状態密度における孤立バンドが粒子系の粘性率・弾性率・動的弾性率に果たす役割を明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、初年度に①粒子間の摩擦が粒子系の粘弾性に与える影響を明らかにするため、分子動力学法を用いて粒子運動のダイナミクスが過減衰する場合の応力緩和を調べることになっている。具体的には、粒子系の密度と粒子間の摩擦力の強さをパラメータとし、応力の緩和時間がジャミング転移によってどの様に変化するかを解明することである。特に、緩和後の粒子配置から状態密度を計算し、①に起因する擬フロッピーモードによって数値結果を理論的に説明することが必要である。また、状態密度を用いた動的弾性率の表式により、緩和時間のパラメータ依存性を説明することが初年度の目標である。 初年度の研究成果は粒子間に接線力が働く場合の線形応答に関するものである。ここでは、擬二次元的に配置した球形粒子を考え、粒子間に接線方向の弾性力を導入する。粒子が平衡位置の周りで微小振動する場合を調べるため、クーロン摩擦など塑性的な変形は考慮しない。これにより、各粒子の回転自由度を加えたダイナミカル・マトリックスを計算することができ、微小なせん断変形に対する粒子系の剛性率の表式が得られる。但し、剛性率の表式はダイナミカル・マトリックスの固有値と固有ベクトルを含んでおり、ダイナミカル・マトリックスの各要素は粒子の平衡位置を与えて初めて決定される。従って、分子動力学法で求めた粒子位置を使ってダイナミカル・マトリックスの各要素を決定し、数値的に固有値と固有ベクトルを求めることで剛性率を計算した。計算した剛性率は分子動力学法で直接求めた剛性率とほぼ100%一致し、数値データのインプットが必要ではあるものの、粒子系の剛性率を理論的に予測することに成功している。さらに、定常せん断下における粒子系の応力についても同様の解析を行い、急激な応力降下(アバランチ)が起こる場合を除き、分子動力学法による数値計算の結果をほぼ100%説明することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画では、次年度に①摩擦が粒子系の塑性に与える影響を明らかにするため、分子動力学法により、粒子系の準静的せん断変形を調べることになっている。粒子系の塑性は弾性率が負になることで予測される。従って、せん断による状態密度の変化を調べ、状態密度を用いた弾性率の表式から、塑性を引き起こす固有モードを特定する予定である。また、状態密度や固有モードの結果を擬フロッピーモードで説明し、理想化された粒子モデルにおけるソフトモードとの違いを解明することが目標である。 一方、粒子間の粘性力がせん断下における粒子の拡散および動的不均一性に果たす役割についても研究成果があり、次年度は粘性力の効果についても研究を進める予定である。例えば、粒子間の粘性力が粒子系の音波物性にどの様な影響を及ぼすか、粘性力とジャミング転移の関係は何か、粒子系の動的弾性率の表式から音波の分散関係と散乱係数の振る舞いを説明できるかなど、状態密度と音波の関係に着目した研究も進める予定である。また、①摩擦が粒子系のレオロジーに与える影響として不連続シェアシックニングがよく知られているが、せん断下における粒子の拡散や動的不均一性は摩擦によってどう影響されるかなど、非平衡定常状態における①の役割についても詳しく調べる予定である。
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Causes of Carryover |
コロナウイルス感染症の影響により、予定していた海外の研究協力者との打ち合わせが延期され、国際学会への参加が中止になったため。次年度は延期された打ち合わせや国際学会への参加を改めて行うため、翌年度分として請求する。
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Research Products
(4 results)