2022 Fiscal Year Research-status Report
量子可逆性を利用した微小熱機関の有限時間操作プロトコル構築に関する研究
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22K03467
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
内山 智香子 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (30221807)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
橋本 一成 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (10754591)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 量子熱機関 / 量子コヒーレンス / 非マルコフ効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々の日常生活で取り扱う物質の熱的な性質は,熱力学によって理解・記述されている.その代表的な成果は蒸気機関や内燃機関などの熱機関として結実し,われわれの生活を支えている.しかし,熱機関においてエネルギー変換の媒体として利用される作業媒質のスケールをどのように変化しても,熱力学が成り立つのか,また,熱機関の効率は作業媒質の大きさによってどのように変化するのか,という問いに対する取り組みが盛んに行われている.特に,作業媒質を原子・分子といったミクロなスケールの実体とした微小熱機関に関する理論研究が加速している.のみならず,量子技術の急速な進展を背景に,実験も数多く行われている.しかし熱機関に量子力学的視点を持ち込む際,「量子性」の果たす役割の明確化は未だ挑戦的な課題として残されている.本研究は,この量子性として特に,量子コヒーレンスと,熱浴の相関時間程度の短時間領域の振る舞い(非マルコフ効果)の量子可逆性に注目し,量子熱機関の熱効率への影響を明らかにすることを目的とする.具体的には, 1/2スピンを作業媒質とし,各過程を有限時間で操作するモデルを考え,量子可逆性が熱機関効率を向上させる条件を探索し,「量子性」を利用した有限時間操作可能な微小熱機関の理論構築を行うことを目指している. 本研究の開始にあたり,今年度は熱機関を構成する基本要素に分けて検討を行った.まず,1/2スピンが熱浴と相互作用している系において,量子コヒーレンスが果たす役割についてのエネルギー的視点からの考察を行い,論文発表を行った.また,量子コヒーレンスの制御の具体的実装提案を見越して,回転磁場の影響を取り込んだ完全係数統計の枠組みを整え,量子ドットー電子溜系に適用を行った結果について,日本物理学会および国際会議にて発表を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,熱機関に対する「量子性」の役割を明らかにすることを目的としている.具体的には,量子性として,量子コヒーレンスと,熱浴の相関時間程度の短時間領域の振る舞い(非マルコフ効果)の量子可逆性に注目し,量子熱機関の熱効率への影響を明らかにすることを目指している.研究対象である量子熱機関の素過程は,作業媒質と熱浴との相互作用と外部磁場による作業媒質のエネルギー準位制御の2種類に大別される.本研究の代表者と分担者は,1/2スピン系と熱浴との相互作用における非マルコフ効果の取り扱いには習熟しているものの,量子コヒーレンスの扱いは初めてとなる.そこで,本研究の開始にあたり,令和4年度は,量子コヒーレンスを取り込むための理論的枠組構築に集中することとした.具体的にはまず,定常磁場による量子コヒーレンス生成過程と熱浴との相互作用による擾乱が競合する状況下で,作業媒質と熱浴とのエネルギー交換ダイナミクスを記述する理論的枠組を整備した.さらに回転磁場の影響を取り込むことが可能な枠組みへの拡張も行った. 以上より,今後本研究で必要な理論的枠組の主要部分の整備を行い,次年度以降の研究への準備を完了することができたことから,おおむね順調に進展していると自己評価している.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,令和4年度に構築した理論的枠組を,熱機関の素過程に適用し,熱機関効率の見積もりを行う段階に進む.その際,エネルギーを変換して得られる仕事量の定義として,どのようなものが適切なのか,についての考察が必須となる.先行研究を参考にしながら,複数の指標を用いて,熱機関効率の見積もりを行う予定である.
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Causes of Carryover |
令和4年度に海外出張旅費を計上していたが,新型コロナウィルスの影響により,出席を予定していた国際会議の中止やオンライン開催への変更が行われたため,やむを得ず海外出張を中止した.新型コロナウィルスの感染状況も沈静化の兆しが見られ,国際会議等が通常通り開催されることが予想されたため,海外出張旅費を次年度使用とすることとした.
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