2023 Fiscal Year Research-status Report
界面およびバルク敏感ハイブリッド電気伝導測定による水素吸蔵金属中の水素挙動の研究
Project/Area Number |
22K03483
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
神原 浩 信州大学, 学術研究院教育学系, 教授 (00313198)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 水素吸蔵金属 / 界面電気抵抗 / バルク・界面同時測定 / 水素拡散 / パラジウム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,水素雰囲気下における水素吸蔵金属(パラジウム)と水素の相互作用を高感度の電気伝導測定をプローブとし,水素吸蔵金属の内部と界面に注目して研究を行っている。試料内部敏感と表面/界面敏感の手法は本来それぞれに特化した別物であるが,本研究では水素吸蔵金属の内部の抵抗を4端子法で,試料と金属電極間の界面抵抗を3端子法で測定する際,電流端子の一つを共通にすることで,同時に同一サンプルで内部の抵抗と界面抵抗をハイブリッド測定可能としている。 昨年度までの研究では,室温(約20℃)での電気抵抗の時間変化において,水素吸蔵時に内部の抵抗は直ちに上昇するのに対して,界面抵抗は内部の抵抗の時間変化が緩やかになるころに遅れて急激に上昇することが観測されていた。一方,真空引き下の水素放出時においては,内部の抵抗は連続的に緩やかに減少するが,界面抵抗は水素導入後に上昇した値からはほぼ時間変化のない一定の値を示していた。この界面抵抗の異常な振る舞いの原因を追究する上で,温度,水素導入圧力等の実験条件を変えながら測定を進めていった結果,パラジウムが水素吸蔵による体積膨張で電極端子との接触面積が小さくなり,界面抵抗の増大を引き起こすことが推測された。そこで本年度は,電極端子として,これまでの導電性銀エポキシから金スパッタ膜に変更したところ,内部の抵抗の時間変化に同調して界面抵抗も時間変化することが観測され,界面抵抗の異常な振る舞いは観測されなかった。つまり,金スパッタ膜はパラジウムの体積膨張に応じて変形でき,水素による界面抵抗の応答を追従できていると言える。本年度後半から現在にかけては,電極に加え,パラジウム試料そのものもスパッタ膜(厚さ100 nm程度)で作製し,薄膜試料での試料内部と界面での水素応答の時間変化について調べている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでにパラジウムの水素吸蔵に伴う試料内部の電気抵抗と,パラジウム-金属電極界面における界面電気抵抗の同時測定による時間変化を調べてきた。昨年度までの実験結果からは,室温(約20℃程度)におけるパラジウム内部の抵抗は水素吸蔵に伴い直ちに上昇するが,一方,界面抵抗は内部の抵抗の変化が緩やかになるころに遅れて急激に上昇することが観測されていた。この界面抵抗の時間差や異常な振る舞いを追究するため,本年度は,電極端子をこれまで用いていた導電性銀エポキシから,金スパッタ膜に変えて,水素吸蔵実験を行ったところ,内部と界面は同時に水素応答していることが分かり,界面抵抗が内部の抵抗変化より遅れて急激に上昇するという振る舞いは観測されなかった。現在までのところ,銀エポキシ電極で見られた急激な界面抵抗の上昇は,パラジウム水素合金の水素高濃度相への転移に伴う体積膨張による影響と考えられる。銀エポキシ電極の場合,パラジウムの体積膨張に追従できず,界面で電極と試料の接触面積が小さくなることで界面抵抗が大きく上昇するのに対して,金スパッタ膜ではパラジウムの体積膨張に応じて膜の変形がなされることで異常な抵抗上昇は見られなかったと考えられる。従って,今後の実験では,電極をスパッタ膜で形成することで界面での水素応答を抽出する。またこれまでは,パラジウム試料に関しては,厚さ0.05mm程度のバルク試料を中心に測定を行ってきたが,本年度の後半から,パラジウム試料そのものをスパッタ膜で形成し(厚さ100nm以下),薄膜での試料内部と界面での水素応答について測定を始めている。これまでに,水素高濃度相での体積膨張により,アイランド同士の接触が増え試料内部の抵抗は小さくなること,界面抵抗は非常に長い時定数で減少方向に変化し続けること等が観測されている。引き続き,温度,水素圧力の条件を変えて水素応答を調べている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として,スパッタにより形成したパラジウム薄膜(厚さ100nm以下)の試料と,バルクパラジウム試料において,水素吸蔵時おける試料内部の抵抗と試料-金属電極間での界面電気抵抗の時間変化を測定し,内部と界面での水素応答についての考察を深めていく。これまでの実験結果から,水素高濃度相での体積膨張が導電性銀エポキシ電極を用いた場合の界面電気抵抗の異常の原因であることが分かってきたので,電極は金スパッタ膜で作成する。また,スパッタで形成した薄膜パラジウム試料は,厚さによって内部のパラジウム密度の一様さが異なってくることが予想されるため,膜厚をパラメータとして,さらに薄く(20nm程度まで)していった試料での水素応答にも着目する。薄膜,バルク試料ともに,パラジウム水素合金の圧力-濃度-温度相図と照らし合わせて,水素低濃度相,低濃度相-高濃度相共存領域,高濃度相の3領域を切り口として,試料内部と界面での水素応答を考察していく。具体的には,温度を一定に保ち,水素導入圧力を徐々に上げていく方法で,時間応答のデータをとる。特に界面抵抗は非常に長い時定数で緩やかに変化することが分かってきており,平衡状態を実現することは困難であるので,緩和時間の温度依存性の動的観点からのアプローチで考察を進めたい。
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Causes of Carryover |
(次年度使用額が生じた理由) ・当初計画で見込んだよりも安価に研究が進んだため,次年度繰り越し使用額が生じた。 (使用計画) ・次年度使用額は令和6年度請求額と合わせて消耗品費や成果発表費(論文投稿費等)として使用する予定である。
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