2022 Fiscal Year Research-status Report
Theoretical study of superfluid ordering process in the BCS-BEC crossover regime of an ultracold Fermi gas
Project/Area Number |
22K03486
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大橋 洋士 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (60272134)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | フェルミ原子ガス / BCS-BECクロスオーバー / 超流動 / 非平衡状態 / クーパー対形成 / Bose-Einstein凝縮 / Keldysh Green関数 / FFLO状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
化学ポテンシャルの値が異なる2つの熱浴と接することで非平衡定常状態になっている2成分フェルミ原子気体の超流動転移を理論的に研究した。この駆動散逸系においては、先行研究により、2つの熱浴の影響で生じたフェルミ原子の運動量分布の2段構造により、熱平衡状態にある金属超伝導分野で議論されているFulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov(FFLO)状態の前駆現象と類似の「重心運動量がゼロでない対形成揺らぎ」が低温で増大することが既に知られているが、ガスのような空間的に等方的な系では、この揺らぎに因り、対応するFFLO超流動秩序は完全に破壊されてしまうとされていた。 そこで、このFFLO型超流動状態を安定化する方法を探るため、先ず、熱平衡状態の金属超伝導における従来型FFLO状態の安定性を理論的に研究、空間的に等方的な系ではやはり自身の対形成揺らぎに因り長距離秩序は失われるが、結晶格子により系の等方性がない場合は、FFLO状態への相転移が有限温度で起こることをNSR理論を用い明らかにした。次に、本研究が対象とする「非平衡定常状態にある駆動散逸フェルミ原子気体」に研究を進めるため、空間的に等方的なガス系に対する従来の非平衡強結合理論を、系の空間的等方性を3次元光格子により破った状態でも扱えるように拡張した。この理論を用い、FFLO状態への相転移温度を理論的に評価、光格子の導入によりFFLO型の対形成揺らぎが抑制され、FFLO超流動相が実現することを理論的に明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来の非平衡強結合理論は、系が空間的に等方的なガス系しか扱うことができなかったが、2022年度の成果により、3次元光格子中という、系の空間的等方性が破れた場合をも扱うことができるようになったことは、大きな成果であると言える。駆動散逸フェルミ原子ガスの非平衡定常状態では、接続された2つの熱浴間の化学ポテンシャル差で生じたフェルミ原子の運動量分布の2段構造により、FFLO型の対形成揺らぎが低温で増大することが既に知られているが、系が空間的に等方的な場合、この揺らぎは超流動秩序を破壊してしまう。これを回避する方法の1つは、光格子を系に導入することであり、本研究の成果により、そうした状況を理論的に扱うことができるようになった。このように、2022年度は、適用範囲は依然、非平衡定常状態に制限されるものの、非平衡強結合理論を発展させることができたことから、研究はおおむね順調に進展していると判断する。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、Keldyshグリーン関数を用いた非平衡強結合理論を非平衡非定常状態にある超流動相をも扱えるよう、前年度の成果の拡張を行う。最初、平均場近似が有効な弱結合BCS領域を考え、そこでの理論の検証(超流動秩序パラメータの導入と、それが時間発展する状況を理論的、数値的に扱えるかの確認)を入念に行った後、BCS-BECクロスオーバー領域から強結合BEC領域へと、理論を拡張する。 2022年度の研究成果により、3次元光格子中にある駆動散逸フェルミ原子気体では、等方系では現れないFFLO超流動相が実現することが明らかとなった。今後は、今回安定化に成功したFFLO状態、および、既に実現可能性が理論的に予言されているBCS状態以外の新奇超流動状態の可能性についても研究を行う。この可能性の探索については、対象を駆動散逸系に限定せず、「時間依存する超流動系」という観点で幅広く実施する。
|
Causes of Carryover |
コロナにより、出席を予定していた国際会議への参加形態がすべてオンラインとなったため、それに対する旅費が未使用となった(オンラインで参加した)。これにより生じた次年度使用額分については、数値計算やデータ解析などの研究遂行に必要な物品購入、および、旅費に使用する計画である。
|