2022 Fiscal Year Research-status Report
Explorations of novel Nambu-Goldstone modes in quasiperiodic magnets
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22K03502
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山本 昌司 北海道大学, 理学研究院, 教授 (90252551)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 磁性準結晶 / Penrose格子 / Ammann-Beenker格子 / 補空間 / マグノン / Goldstoneモード / Raman散乱 / 非弾性中性子散乱 |
Outline of Annual Research Achievements |
2次元Penrose(P)及びAmmann-Beenker(AB)格子上の反強磁性体について,Raman散乱スペクトルの解析を行った。磁性体のRaman応答理論としては,半充填単バンドHubbard模型から出発するLoudon-Fleury(LF)の強相関2次摂動機構が標準的であるが,ここでは,Shastry-Shraiman(SS)の4次摂動機構まで考える。P格子,AB格子ともに,2マグノン(2M)媒介2次過程ではE_2モードのみRaman活性,4マグノン(4M)媒介4次過程でA_1, A_2モードが加えてRaman活性となる。A_1は4スピン・リング交換,A_2は3スピン・カイラル相関をそれぞれ検出するもので,主としてHeisenberg対スピン相関が駆動するE_2モードに比べて,より高い興味を喚起する。本研究の1つ目の成果として,2次元準周期格子一般に,すなわち,2,3,4,6以外の回転対称性をもつ2次元(必然的に準周期)格子反強磁性体一般に,A_2は超LF機構により必ずRaman活性化することを解明した。
理論・計算物理学における収穫として,計算手法についても触れる。Green関数(GF)による摂動繰り込み計算に加えて,配位間相互作用(CI)法によるRamanスペクトル計算も行った。2粒子GF繰り込みはBethe-Salpeter方程式,3粒子GF繰り込みも類似の梯子ダイアグラム近似で繰り込み可能であるが,SS機構で主役となる4粒子GFの汎用的繰り込み方程式は確率していない。そこで4M-GFについては3+1ないし2+2と低次GFに分解して計算を行う。これに対してCI法は,4M散乱を分解せず取り入れて対角化することが可能で,多マグノン散乱媒介のRamanスペクトルをより高い精度で再現できることを,少数スピン・クラスタのLanczos計算と比較して実演証明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
磁性準結晶に発現するマグノン励起モードの特徴を周期系のそれと比較して炙り出す。そこに立ちはだかる最大の困難は並進対称性の欠如である。運動量が良い量子数ではないため,マグノン励起スペクトルを分散関係で分類することができない。周期系では,まずFourier変換を行いハミルトニアンを運動量量子数で直和分解,(格子サイズLに対して)1オーダーまで縮めた行列を対角化する。しかし今,この文脈で運動量(k)空間に移行するメリットは無く,サイズLオーダーのハミルトニアンをLAPACK等汎用数値ルーティンで直接対角化することになる。ボソン系のBogoliubov変換は非エルミート行列対角化問題で,電子フェルミオン系に比べて知識と工夫が必要である。スピン・ハミルトニアンをボソン言語で記述する場合,強磁性体の固有値問題はユニタリ変換で解決するが,(フェリ磁性基底状態も含めて)反強磁性相互作用磁性体ではBogoliubov変換―粒子の生成・消滅演算子を混成する線形結合―が必須となる。これを格子サイズ・オーダーでただただ数値処理することはあまりに見通しが悪く,そこで筆者は,回転量子数Qによるブロック対角化に取り組み,初年度,Penrose(C5v)及びAmmann-Beenker(C8v)格子で,マグノン・スペクトルをQの関数として求め,Raman散乱,非弾性中性子散乱をこれに基づき記述することに成功した。
(空間)回転量子数Qは本質的に離散変数であり,熱力学極限で連続変数となる運動量量子数kと同じ役割は期待できない。しかし,例えば円偏光との相性は良いのではないかと考える。対マグノンが媒介するRaman散乱スペクトルをQで特徴付けられないか。Q=0に発現するGoldstoneモードを選択的に観測できないか。Qを道標にマグノン励起を実空間また補空間で可視化する。暗闇に一筋の光を見出し2年度目に向かう。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度,回転量子数Qを考慮してハミルトニアンを対角化,静的動的物理量の計算においてQ確定マグノンの寄与を抽出できるようになった。RamanスペクトルをE_2,A_1,A_2の各対称性モードに既約分解するには,直線偏光,円偏光でスペクトルを取り連立方程式を解く。各モードRaman散乱を媒介するマグノンの合計Qには特徴があるのでは,ならばその内訳についてもある程度の規則性を見出せるのでは。すると,Goldstoneモードを選択的に抽出するようなRaman観測が有り得るのではないか。(保存量としての)運動量量子数kが無い中,回転量子数Qを道標に各種物理量を考察してゆく。2年度目以降の研究推進に,1つ確たる羅針盤を獲得した,そう願っている。
まずは,スピン波ハミルトニアンを(Q量子数ごとに)対角化して単独マグノンの特性を見出す。サイト配位数zは,Penrose格子で3から7,Ammann-Beenker格子で3から8と分布している。マグノン励起モードをQで分類するとき,Qとzの間に何か関係はないだろうか。例えば Penrose格子遍歴電子系では,零エネルギーに局在(confined)状態,特定の配位数だけから構成される状態が見つかっている。Penrose格子で動的構造因子を計算してみると,散乱連続帯を横切るように,あるいはその上に,ウェイト強弱はあるものの,複数のフラット・バンドのようなものが見える。これは,特別なマグノン,例えばある配位数サイトのみが寄与するマグノンで出来ているのではないか。こうした考察を定量的に裏付けるために,LDOS,局所状態密度を計算する。また特定配位数に対する依存性を観るために,補空間解析を積極的に進める。実空間では無限に拡がる各zサイトであるが,補空間では,各zサイトは有限コンパクト空間に収まる。補空間でマグノン波動関数を観る,魅力的可視化方法である。
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Causes of Carryover |
予算が余ったのではなく,費用高騰で欧州渡航を諦め国内会議出張に振り替え,これまで運営費交付金で処理してきた日常的研究活動,末端費用,これらの一部にも科研費若干を充当,当初の予定が大きく崩れ,申請時に必要と見込んだ活動・行事にあってもこれを取捨選択して絞り込み,やりくりしながら研究を遂行した結果,端数が残ることとなった。次年度は,50頁クラスの重厚原著論文のオープン・アクセス投稿,またコロナ禍が明けつつある中増えつつある現地開催会議への積極的参加・情報発信を予定しており,僅かな残額はこれらに充当してゆく所存。
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Research Products
(7 results)