2023 Fiscal Year Research-status Report
Study on novel helium-3 quantum fluids with various dimensionalities and correlations designed by nano-sized environments
Project/Area Number |
22K03510
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
松下 琢 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (00283458)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 低次元系 / ヘリウム3量子液体 / 朝永ラッティンジャー液体 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度も研究実施計画中に示した「1次元3He薄膜流体、朝永ラッティンジャー液体は実現するか」に関する研究を実施した。これまで我々は孔径2.4nmの1次元細孔に希薄な3Heを吸着した場合、比熱等が3Heの1次元状態を示す領域でのみ、朝永ラッティンジャー(TL)液体の典型的な振る舞いとされる、温度に反比例するスピンスピン緩和時間が観測されることを示してきたが、非縮退状態でも似た振る舞いが観測されることなどから、TL液体の決定的な証拠としては認められていない状況にあった。また、1次元細孔は端が解放されているため、観測されているスピン緩和が純粋に3He流体の1次元的な運動を反映しているのか、端から流出した3次元的な運動も1部混在するのか、という疑問が残されていた。令和5年度は後述するように冷凍機で十分な低温が得られなかったため、0.3K以上の比較的高温で3Heスピン拡散の系統的な測定を行い、後者の問題について検証を行った。スピン拡散の測定については従来のスピンエコー(SE)法に加え、より長時間の拡散を追跡できるスティミュレイティッドエコー(StE)法を併用した。その結果SE法で測定できるスピンスピン緩和時間程度の短時間では実験誤差範囲でスピン拡散は観測されなかったが、StE法による長時間では有意なスピン拡散が測定されることがわかった。これは短時間では3Heは制限された細孔内を1次元的に運動するものが主であるのに対し、長時間では細孔外まで拡散が進み3次元的に長距離移動することを反映したものと考えられる。この2種の拡散の移行時間はスピン拡散が比較的速い高温の0.7Kでもスピンスピン緩和時間の数倍程度であったことから、これまで観測されてきた、温度に反比例する特徴的なスピンスピン緩和時間のふるまいはまさに1次元細孔中の3Heの1次元運動に起因するということが確認された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前述したように、冷凍機が1次元3Heの縮退温度まで十分冷却されないという前年度より続く問題が今年度も継続してあった。それでも比較的高温では実験ができたため上記のように拡散の時間スケールを明らかにすることができたが、スピン拡散の測定によって3He運動の縮退状態と非縮退状態における定性的な相違を検証するという最も重要と考える実験を行うことができなかった。この不調については冷凍機に対して様々な改良を施しつつ試行錯誤を多数繰り返した結果、高温部に接触したスペーサからの流入熱を強固な熱リンクを通じて希釈冷凍機の中間部に逃がすことによって、従来同様の60mK程度までの低温が得られることがわかった。検討の結果、従来はこの熱リンクの役割をNMRコイルの配線がになっていたのだが、配線が短くなり継ぎ足し等を行ってきた結果、この役割を十分果たせなくなったことが冷凍機が冷えなくなった主因であったと考えられる。この熱リンクの強化によりようやく従来同様の低温が得られるようになったので、現在3Heスピン拡散の縮退温度域での低温測定の準備をいそいで進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和6年度は「1次元3He薄膜流体、朝永ラッティンジャー液体は実現するか」という課題に関して、縮退状態と非縮退状態双方において1次元3Heのスピン拡散の系統的な測定を行い、その定性的な違いを検出することでTL液体が実現しているかどうかに関する結論をみちびき、また1次元電子系との相違などの検証から相互作用が異なることに起因する1次元3He液体に固有な特性を明らかにすることを目指す。特に問題になっているのは、TL液体に合致するスピンスピン緩和時間のふるまいが縮退状態と非縮退状態双方で観測されることであるが、スピン格子緩和時間には定性的な違いがあることを考えると、スピン拡散の測定によって直接的に3Heの運動を観測することで、その決定的な結論を得ることができると考えられる。これまでに予期せぬ冷凍機の不調があったため、当初予定していた細孔径に関する依存性を観測するところまで最終的にいたることはできなくなったが、2.4nm細孔中の3He密度を変えた系統的な測定により縮退状態と非縮退状態の3He運動状態の相違を明らかにする。また細孔を被覆した4He膜厚を変えることで3Heの流動性や原子間相互作用を変えた場合の1次元3Heの緩和時間やスピン拡散を観測することで現象の相互作用依存性や再現性の検証を行い、この1次元量子系の基底状態の特性を明らかにする予定である。結論にいたれば、国際学会での発表や、論文をまとめ学術雑誌への投稿を行い、その成果を公表する。
|