2022 Fiscal Year Research-status Report
Quantum theory on the magnonic Wiedemann-Franz law
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22K03519
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
仲田 光樹 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究副主幹 (20867105)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | マグノン / 量子物性 / 熱磁気物性 / Wiedemann-Franz則 / 磁性絶縁体 / スピントロニクス / マグノニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、スピン波を量子化したマグノンに宿る量子物性を解明し、従来の古典的スピントロニクスを量子スピントロニクスに昇華させることである。本年度は、マグノンの熱磁気物性である「マグノンWiedemann-Franz則」だけでなく、その量子物性である「マグノン・カシミア効果」に着目して研究を行った。そして特に次の2つの研究実績を得た。 研究実績1) マグノンWiedemann-Franz則 [K. Nakata et al., PRB (2015)]を非線形応答領域へ拡張することに成功した。特に、線形応答領域で確立されたマグノンWiedemann-Franz則が非線形応答領域において破れることを解明した。この研究成果を、Phys. Rev. B誌から出版した。 研究実績2) マグノン量子場の量子真空ゆらぎによる量子効果「マグノン・カシミア効果」を理論的に解明した。有限体積中の量子場の真空ゆらぎによって生じるカシミア効果は、古典力学には対応物が存在しないという意味において量子効果といえる。これまでカシミア効果は主に光子系を舞台に研究されてきたが、量子場の理論の観点から鑑みると、カシミア効果に類似の量子現象は、ゼロ点エネルギーを伴う他の量子場によっても創出されることが期待できる。そこで本研究では、反強磁性体だけでなくフェリ磁性体中のスピン波を量子化したマグノンの量子場に着目し、マグノン量子場の量子真空ゆらぎによる量子効果「マグノン・カシミア効果」を理論的に解明した。特に、酸化クロム(III)とYIGの薄膜に着目し、各々のマグノン・カシミア効果の性質を明らかにした。本研究の成果は、カシミア効果の工学的応用を目指す「カシミアエンジニアリング」の基礎学理の構築に大きく貢献することが期待される。この研究成果を、Phys. Rev. Lett.誌から出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究実績1)の概略「強い非線形領域におけるマグノンWiedemann-Franz則の破れの理論的解明」(Phys. Rev. B誌から出版)。 研究実績2)の概略「フェリ磁性体中のマグノンCasimir効果の理論的解明」(Phys. Rev. Lett.誌から出版)。 現在、上記の研究実績1)2)で得られた知見を活用し、その発展研究1’)2’)を次の通り進めている。 発展研究1’)半古典Boltzmann方程式を用いて得られた研究実績1)を、非平衡量子場の理論(量子輸送方程式)を活用することで発展させ、マグノンWiedemann-Franz則の量子論を構築する。準粒子近似に基づく半古典Boltzmann方程式では、ある種の量子効果が失われてしまう。そこで、準粒子近似に基づかない量子Boltzmann方程式を用いてマグノンのスピン流及び熱流を微視的に評価し、従来の半古典的マグノンWiedemann-Franz則を量子論に昇華させる(その具体的手順は、下記「今後の研究の推進方策」に示す)。 発展研究2’)エネルギー散逸のないエルミート系におけるマグノン・カシミア効果の研究 [cf.,研究実績2)]で得られた知見を活用し、マグノン・カシミア効果の非エルミート理論を構築する。特に、例外点、等の非エルミート量子力学に固有の概念がマグノン・カシミア効果にどのような影響を与えるのかに着目して研究を進めている。現在、磁場下の反強磁性体で発生することが知られているスピンフロップ転移のような相転移がエネルギー散逸下において発生しないかどうか、また、磁気秩序は散逸下でどこまで安定か等、慎重に検討している。 上記の通り、当初予定していたマグノンWiedemann-Franz則に関する研究で成果をおさめるだけでなく、関連・発展研究まで進めることができたため、当初の計画以上に進展している、と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
発展研究1’)「量子力学的マグノンWiedemann-Franz則の構築」の推進方策:i)量子輸送方程式から出発して重心座標に関する勾配展開を行い、マグノンの量子Boltzmann方程式を導出する。これにより、従来の準粒子近似に基づく半古典的Boltzmann方程式では削ぎ落されていた量子効果を、マグノンの自己エネルギーを通じてスペクトル関数に取り込み、理論に反映させる事ができる。ii)次に、量子補正を取り込んだマグノン非平衡分布関数を微視的に導出する。特に電子系の量子輸送研究で用いられる「Mahanの仮設の方法」をマグノン系に発展させる。非平衡分布関数の情報は非平衡Green関数のlesser成分に集約されている。そこで、lesser成分に関する量子Boltzmann方程式を自己無撞着に解く事で、スペクトル関数由来の量子補正を適切に取り込んだマグノン非平衡分布関数を導出する事ができる。iii)得られた量子補正込みのスペクトル関数及び非平衡分布関数を用いて、マグノン輸送係数を微視的に導出し「量子力学的マグノンWiedemann-Franz則」を構築する。 発展研究2’)「マグノン・カシミア効果の非エルミート理論の構築」の推進方策:磁場下の反強磁性体で発生することが知られているスピンフロップ転移のような相転移がエネルギー散逸下において発生しないかどうか、次の文献も参考にしながら、必要に応じ、量子マスター方程式(Lindblad方程式)も援用することで、多角的見地から検討する[Phys. Rev. A 98, 042118 (2018):``Spectral theory of Liouvillians for dissipative phase transitions'']。また、非エルミート系に特有の「熱力学ポテンシャルの虚部」の物理的・定性的意味についても考察を行う。
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Causes of Carryover |
令和4年度に予定していた外国出張を取りやめたことや購入を予定していた物品の価格高騰により購入計画を見直したことで、これらに係る費用が次年度使用額として生じた。次年度使用額は令和5年度分研究費と合わせて、旅費及び物品購入費としての使用を予定している。
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Research Products
(8 results)