2022 Fiscal Year Research-status Report
Correlation-induced Topological Order and Superconductivity in Organic Nodal Line Semimetal
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22K03526
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小林 晃人 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (80335009)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉見 一慶 東京大学, 物性研究所, 特任研究員 (10586910)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ノーダルライン半金属 / ディラック電子系 / 有機導体 / 電子相関効果 / トポロジカル秩序 / ランダウ量子化 / 変分モンテカルロ法 / 分子内反強磁性 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は単一成分分子性導体[Ni(dmdt)2]におけるノーダルライン半金属のスピン揺らぎの性質と、有機ディラック電子系α-(ET)2I3およびα-(BETS)2I3におけるギャップ形成機構の解明を目的とする研究を行った。 [Ni(dmdt)2]はディラックノーダルライン系の一つであり、ノーダルラインに沿ってホールポケットと電子ポケットを有する。理想的なディラックノーダルライン系のスピン格子緩和率1/T1T は温度の二乗に従うことが予想されるが、この系でNMRにより観測される1/T1Tは30K付近の低温で非自明なピーク構造を持ち、そのメカニズムは解明されていない。本研究では、第1原理計算に基づいてフラグメント分子軌道を基底とする拡張ハバード模型を構築し、これに乱雑位相近似を適用してスピン感受率を計算し、この物質で分子内反強磁性揺らぎ発達することを提案した。 α-(ET)2I3では、空間反転対称性の破れを伴うストライプ電荷秩序がディラック点にギャップを形成することが知られている。一方、関連化合物α-(BETS)2I3でも低温でギャップが形成されるが、そのメカニズムはα-(ET)2I3とは明らかに異なることが様々な実験結果により示されている。本研究ではこの違いの原因を解明するため、第1原理計算に基づき非経験的に低エネルギー有効ハミルトニアンを導出し、多変数変分モンテカルロ法(mVMC)を用いて電子状態を調べた。この計算によりα-(ET)2I3ではストライプ電荷秩序が現れ、先行研究と一致した。一方α-(BETS)2I3 では、分子間の磁気相互作用のフラストレーションによりスピン相関の有効的な次元が減少し、一次元的なスピン相関が発現することが分かった。さらにこのスピン相関によって明示的な対称性の破れを伴わないギャップが形成されることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
単一成分分子性導体[Ni(dmdt)2]におけるノーダルライン半金属のスピン揺らぎの性質については、本研究ではNMRにより観測される1/T1Tは30K付近の低温で非自明なピーク構造がフラグメント分子軌道上の分子内反強磁性揺らぎにより説明できることを示した。ところが最新のNMR実験により、磁場を強くするに従ってピーク構造が抑制される振舞いが新たに観測された。これは二次元ディラック電子系α-(BEDT-TTF)2I3の強磁場下でのスピン揺らぎとは逆の傾向である。この傾向は従来のモデルだけでは説明することができず、新たな謎が浮上した。このように理論と実験の密接な連携により、有機ノーダルライン半金属の電子状態の研究は深化を続けている。 有機ディラック電子系α-(BETS)2I3におけるギャップ形成のメカニズムに関する研究に関しては、本研究では第1原理計算に基いて構築した模型に多変数変分モンテカルロ法(mVMC)を適用し、フラストレーションによるスピン相関の有効的な次元の減少と、これによる明示的な対称性の破れを伴わないギャップが形成のという2つの新しい概念を提唱した。α-(BETS)2I3では最新の実験研究により、磁気トルク異常、強い軌道反磁性、非常に低温における磁気秩序相、NQRによる隠れた2次相転移の観測、エッジ伝導、ランダウ状態のバレー分裂を示唆するν=1量子ホール状態など、多様な異常物性を有する未知の電子相の存在が報告されており、その全容解明に向けた理論と実験のさらなる連携の強化が望まれている。
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Strategy for Future Research Activity |
単一成分分子性導体[Ni(dmdt)2]におけるノーダルライン半金属のスピン揺らぎの性質については、今後はランダウ量子化の効果に注目する予定である。ランダウ量子化した二次元ディラック電子系のモデルにノーダルライン方向のホッピングエネルギーを加え、異なるランダウ状態間の電子間相互作用も考慮した強磁場下ディラックノーダルライン系の模型を構築する。この模型に基づいて自己エネルギーの効果を考慮したスピン揺らぎを計算し、Ni(dmdt)2] におけるスピン揺らぎの磁場抑制現象を解明することを目指す。これにより本研究では強磁場下のディラックノーダルライン系における電子間相互作用の重要性を示す。 有機ディラック電子系α-(BETS)2I3の非自明な電子状態については、これまでの多変数変分モンテカルロ法による研究で取り入れられていなかった次近接分子間クーロン斥力とスピン軌道結合の効果を取り入れた解析を行う。また外部磁場を印加した場合の電子状態の変化も調べる予定である。 大木らのα-(BETS)2I3に対する平均場理論による先行研究では、スピン軌道結合によりディラック点に誘起される小さなギャップが次近接分子間クーロン相互作用のFock項により低温で増大し、相転移を伴わない絶縁体化が起きることが示されている。このメカニズムはグラフェン等で議論されてきた相互作用誘起の量子スピンホール状態と密接に関係している。さらに磁場を印加すると強い磁気トルクが発生するとともに空間反転対称性が破られることも示されている。本研究では変分モンテカルロ法によりこれらの結果を検証するとともに、最新の実験研究により報告されている異常物性を統一的に解明することを目指す。
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Causes of Carryover |
令和4年度の研究計画を遂行するにあたり、令和4年度に購入予定であったマウントサーバー リアルコンピューティング・RC C-Server Xeonを使用する前に、物性研のスーパーコンピューターを使用して変分モンテカルロ法の数値計算を実行する必要が生じたため。令和5年度では物性研のスーパーコンピューターを使用して得られた計算環境と計算結果を用い、最新のマウントサーバーを使用して研究計画を遂行する。
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Research Products
(10 results)
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[Presentation] Analysis of the electronic state of the organic conductor (EDO-TTF-I)2ClO4 on the bases of the first-principles calculation2022
Author(s)
Taiki Kawamura, Kenichiro Hashimoto, Kazuyoshi Yoshimi, Manabu Ishikawa, Yoshiaki Nakano, Akihiro Otsuka, Hideki Yamochi, Rie Haruki, Reiji Kumai, Shin-ichi Adachi, Akito Kobayashi
Organizer
LT29
Int'l Joint Research
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